39、
着替えて寝室に向かった。
寒すぎて寝間着が着ぐるみなのだけど、まぁ自宅だし関係ないよね。
ベットに飛び込み、携帯を取り出す。
メールの確認をしようと思ったらなにも入っていなかった。
いつもならセラ君が送ってくれてるのに。
下らないメール。
それでも私にとっては大切なやり取りだった。
どうしたんだろう?
風邪でも引いて寝込んでいるのだろうか?
いや、そろそろライブがあるし詰め込んでいるんじゃないだろうか。
何にせよ、心配だった。
私はメールを送る。
『忙しい?』
送信完了。
その文字を見て、私は居間に向う。
流石にお腹が空いたのだ。
居間には珍しく弟もいた。
どうやらキムチ鍋らしい夕食を、辛いと言いながら食べていた。
その向かい側に座る。
「ねぇ、なんで今日メイクしてたの?」
「え?」
「いや、街歩いてたじゃん。眼鏡外して、お洒落して。グレたの?」
最後のワードにお母さんが嬉しそうに反応した。
「グレたの!? 時雨!」
「違うわよ」
出てきたご飯と、具を入れる大きめのお皿はドンと置かれた。
「歩いてただけ」
「またまたー。ナンパされた?」
「されてたらこんな時間に帰ってこないし」
「あ、そうね」
「ナンパされるつもりだったんだぁ。へぇー」
このアホ弟は!!
「違うって!」
「なんでじゃぁ、歩いてたの?」
「えぇっと、それは……」
ほらやっぱりだ、言わんばかりの目を私に向けてお肉を口に入れて辛いと言う。
「べつに、なんでもいいじゃない」
私はキムチ鍋のスープを啜る。
「辛っ!」
「だよね。かぁさん何入れたの?」
「え? キムチよキムチ」
「いやわかってるよ。そこじゃなくて香辛料」
「え? えぇっとねぇ、……これ?」
母が見せてきたのはパプリカのなんかヤバい赤色をしてるやつだった。
「なんて言ったっけ? ココクロじゃなくて……トドマロじゃなくて……ひきでものじゃなくて……」
「まさか、ハバネロ?」
「あぁ、それそれ! ハバネロのまだ優しい方だって! 貰ったからちょっと入れてみた」
「アンタはバカか!」
私はそんなものを食べなければならないのか。
ってか、あれって存在するだけでも目が痛くなるんじゃなかったっけか?
痛くないってことは、きっとハバネロではない、でも辛いものじゃなかろうか。
そんなことはどうでもいい。
とにかく、
「辛っ!」
「元気出るわねぇ」
「食うだけで疲れるわ!」
騒々しい一家だ。
渦中にいながら、私はそう思った。