38、
街中。
眼鏡がないからあまり見えないが、人は結構いる。
主に年下の高校生たちが歩いているが、まぁ大学生もいる。
私たちは慣れていないメイクで取りあえず歩き回る。
特に宛もなく、ただただナンパ待ち。
初めはドキドキしていたが、なんのアクションもないので、暗くなり始めてきた空を見て白い息を吐いた。
「もう、いい加減寒いね。帰ろうか」
「はい、そうしましょう」
そんな上手くいくものではないな。
駅で別れて、いつものように帰る。
なにも変わらない。
車内で眼鏡をかけて、携帯を開く。
セラ君からメールだった。
『ねぇ? チョコ好き?』
『大好きだよ』
なんなんだ、と思いながら返した。
携帯をバックにしまう。
もう降りる駅なのだ。
足早に家に帰り、先ずお風呂にする。
冷えきった体にシャワーヘッドから出てくるお湯は熱かった。
明日学校に行かなければならない憂鬱。
しかし明日行ってしまえば、授業は今年で最後なのだ。
リスキーだが、休む正当な理由もない。
コンディショナーをしっかりと馴染ませながら、ムリヤリ風邪でも引こうか悩んでいた。
シャワーでコンディショナーをよく落とす。
そういえば化粧落としてなかったな。
ファンデーションさえしなくなった最近では滅法使わなくなった化粧落としも、ちゃんとコンディショナーの隣にいた。
慣れない手付きで洗い落としていき、最終的にしっかりと流す。
あまり凹凸のない体を洗うのも慣れたものだが、女としての魅力があまりないのではないだろうか。
どう思いますか、世の中の男性?
誰にも届かない電波を発した。
意外と恥ずかしい。
シャワーを止め、近くに置いておいた髪止めで後ろ髪を上げる。
湯船に浸かり、ホッと息をつく。
暖いお風呂はなんとも心地のいい。
お風呂に入っているときに、幸せを感じる人がいるとかなんとか。
現に私がそうだ。
それは、お母さんのお腹の中にいたときみたいな感覚に近いかららしい。
本能的な快楽。
生きているなぁって実感する。
いつものように本を広げる。
今日で読み終わるだろう。
100ページもない物語の一文字を大切に読んでいく。
女子高校生がやっとのことで好きな彼に告白した。
彼は驚いたような顔をした。
でも、喜んだ顔でもあった。
『ありがとう』
彼は持病を持っていた。
生い先短い。
『僕でいいの?』
『君じゃなきゃダメみたい』
そうねぇ、君じゃなきゃダメみたいねぇ。
私にはよくわからないや。
最終的に、男性は死んでしまう、悲しいお話。
本を閉じていつものところに置いた。
長風呂で少しのぼせたみたいだった。
ゆっくり湯船から出て、本を持ってお風呂から出た。