36、
それは急だった。
学校の休み時間、トイレに入ると、彼女とすれ違う。
はずだった。
肩と肩が当たり私は後ろに倒れる。
そしてピンヒールで肩の付け根を強く踏まれた。
「いた!!」
「あら、ごめんあそばせ」
彼女は平謝りして、手を洗い、そのまま出ていってしまった。
私は立ち上がり、スカートを叩いて個室に入る。
用をたし終わり、拭くと、急に肩が痛み始めた。
痛い。
私は服を脱いで踏まれた所を見た。
「っ……!」
血が出ていた。
皮が抉れている。
私は教室に戻り、キャラものの絆創膏を貼った。
わざとだろうか?
いや、そう決めつけるのはよくない。
でも、彼女ならやりかねない。
いやいや、考えすぎだ。
被害妄想だ。
そんな考えるだけ無駄だ。
そう、なんでもないよ。
お昼になり、そそくさと帰ろうとしたが、そこでまた彼女が私の前に立ちはだかった。
私は一瞥しその横を通り過ぎようとする。
視線を落とし、足を早める。
「待ちなさい」
私の足は止まった。
「会わない約束よね」
一撃だった。
牙さえ食い込んだ感じだった。
「なに? 知らないとでも?」
「いや、私は」
「黙って。もうなんにも聞かないの。あなたの言う言葉なんか。裏切り者なんかのね」
「私は、」
「だから、黙りなさい。黙らないのなら」
私に近づいてきて、ピンヒールで足首を踏まれる。
「っ!!」
「黙りなさい。わかった? それともう会わないでね。あと、学校にも来ないでね」
「いや、それは……」
つい口が滑った。
そう思った矢先に同じところを踏まれる。
「っ!!」
「ホント、ものわかりが悪いブス」
ピンヒールはグリグリと足にめり込んでいく。
「あなたなんか使い物にできなくすることなんか簡単なんだから。男に売る? 業者に売る? それとも臓器売る? そのくらい、できるわよ」
次の瞬間、ビンタされる。
「いいわね? もう、学校なんかにくるな」
頷こうとした。
この苦しみから逃れるならなんでもできる気がした。
そもそも、授業日数は足りている。
ならいいか。
苦しまないで済む。
「あ! やっほー! 時雨ちゃーん」
この場に不釣り合いな声が聞こえた。
皐月さんだった。
スキップしながらこっちに来た。
都合が悪いのか彼女は舌打ちをして足を離した。
「あっれー? イジメ? よくないなぁ。……今ここでシバいてやろうかっ!?」
私の隣に立ち、私の腰に触れてからそれは言われた。
「あら、虐めている訳ではありませんわ。お願いをしていただけですの。それではご機嫌よう。シグレサンっ!」
彼女はくるりと振り返り、優雅に歩いていった。
「大丈夫かな? 時雨ちゃん」
その言葉を聞くなり泣きそうになった。
「大丈夫じゃないです」
「だろうね。ほっぺ赤いよ。叩かれた?」
「はい」
「あらー。可哀想に。足は平気?」
皐月さんはしゃがんでタイツのしたの足を見る。
「あっらー。血が出てるわ。酷いことするなぁ、ホントに」
皐月さんは立ち上がって、私を見た。
「でも、強くなったね。あたしは泣くと思ったよ」
「泣いていいですか?」
「うーーん。……ダメ」
まったく、何が言いたいのですか。
「取りあえず、保健室行こうか。これは消毒せねば」
「あ、はい」
来た道を戻り、そのまま近い保健室に向かった。




