33、
すぐに起き上がると、毛布が2枚掛かっていた。
どうやらソファ席に寝かされていたみたいだ。
店内は相変わらず誰もいないようだった。
無用に広い店内に私一人。
立ち上がりまだぼやけている目のピントを合わせていた。
そういえば近場にリュックがない。
奪われたのだろう。
勝手に帰らないために。
鏡が欲しかったのだ。
さぞかしひどい顔をしているだろうから、少しでも直しておきたかったのだ。
まぁしょうがない。
今更、なにをしようとここから出られないだろう。
私は店内を再び見回した。
数席はテーブルで、ソファを有していて、後はカウンターに椅子が何個か置かれている。
そんなに広くはないが、狭くもない店だった。
カウンターにはコーヒー豆とお酒がズラっと並んでいる。
全く知識がないのでなにがどんなものとかは予想ができなかった。
カウンターの奥はどうやら水場になっていて、そこでコーヒーやらカクテルやらを作るのであろう。
さらにその奥はキッチンであろう。
のれんがされていて見えないが。
入口に目を移すと掛看板が掛かっていた。
営業中。
そう書かれていた。
窓は大きく、カーテンは白を貴重とした、しかし染みがある、丸い刺繍が無数に施されているものが束ねられて外からの光を入れていた。
そのまま店の奥を見ると、そこには黒いテラテラ光る布に覆われた巨大なものが置かれていた。
その隣には少し高くなっている、いわゆるステージのようなものがあった。
なんだろう。
近寄ってみた。
黒いそれは決して四角くない。
ある程度丸みを帯びていて、高さは私の胸の少し下くらいだ。
好奇心。
黒い布をめくる。
黒の反対は赤い毛で覆われていた。
驚いた。
触ったらモフっとしたもんだから。
布の下からはピアノが出てきた。
なんでこんなものがあるんだろうか。
「あら、おはよう時雨ちゃん」
私は驚いて声のした方を見ると、相変わらず奇抜な服装をしているテラコさんが寒そうに手をさすりながらこちらにやってきていた。
「なんか、泣いて寝ちゃったって言ってたわね。どうしたの? 美晴に虐められた?」
笑顔の彼女は私に1番近いカウンター席に座り、いきなり核心を突いてきた。
「いや、あの、……最近ずっと美晴といるんですよ」
「うん知ってる」
「で、私なんかがいいのかなぁ、とか思ってたら、私がいるせいでいい人見つからないんじゃないかなぁとか思って、だから……」
「フッたみたいな?」
フッた?
まぁ、そういう風に捉えることもできるな。
「そんな、まだ彼氏彼女でもなければ、愛を伝えあった仲じゃないでしょ。まだ若いんだし、多少遊んどかないと。男ともね」
それは楽観的過ぎないか。
「まぁ、泣いちゃう程なんだから、よっぽどなんだろうけどね」
「……何がですか?」
「え? うふふ、若いわね」
不気味だった。
心を読まれているようで。