32、
なんだったんだろう。
授業?
そんなものどうでもいい。
なんで、私があんなこと言われなければいけないの?
私が近寄ってる訳じゃない。
ほぼあいつからだ。
なんで。
なんで。
混乱?
している。
私は美晴のなんでもない。
なんでもないのになんなのだこのモヤモヤというか何と言うか。
まるでエサを前にして待てをされている犬のような、そんな気分だ。
お昼休み。
今日はホントだったら私も美晴も午後暇なのだ。
出会う前に帰ろう。
それが、彼女の意志なら、私に逆らう義務はない。
そうだ。
私なんか、結局は1人でなければいけないのだ。
一匹狼?
孤高の鷲?
そんなカッコイイ感じならいい。
私なんて、雪山に1人で死ぬのを待つネズミじゃないか。
いや、都会で残飯を漁るドブネズミかな。
どっちにしろ、いい夢ではない。
お昼休み。
私は直ぐに身支度をして、もはや走るようにして学校を出た。
見つからなかった。
よかった。
これなら、文句は言われない。
美晴もせいせいするだろう。
私みたいな奴の面倒を見なくて。
「なにやってんだ? ここまで走ってきて。頭でも狂ったか?」
ーーーー美晴……!
「ごめん、用事があるから」
「メシ食う時間くらいあるだろ」
「ごめん、ホント時間ないから!」
美晴を抜いて、この場から逃げようとした。
しかし、それは叶わなかった。
美晴に腕を掴まれてしまった。
「嘘だろ! なんで避けてるんだよ。言われなきゃわかんないっつうの」
「嘘じゃないし! ホントに用事があるの!」
「なんの用事だよ」
「それは……」
「言えないんだろ。帰るだけだもんな」
「ち、違うし! バイトだから!」
「なんの?」
「こ、コンビニ」
「どこの?」
「地元のよ」
「じゃぁ、オレも行く。どうせ暇だし」
「な、なんでくるのよ!」
「……嘘だろ? 全部」
もう返す言葉がなかった。
だけど、本当のことなんて言えない。
私が彼の側に居てはいけないのだから。
「お願いだから1人にさせて!」
もはや泣いていた。
こんなことで泣けるのか私は。
本当に私は負け組だ。
「嫌だ」
「なんでよ!」
「お前を1人にしたくない」
なんなのよそれ。
アンタなんかになにがわかるのよ!
ずっと1人だった。
もう慣れてる。
1人の方がむしろ楽。
迷惑なの!
人間関係とかそういうの。
私なんかに関わらないで!
アンタといるだけで辛いの!
迷惑。
迷惑!
思っただけだと思っていた。
いつの間にか振り返っていた私の眼前に見えたのは美晴の驚いた顔だった。
怒鳴っていた。
今から帰ろうとしていた人達の視線が私たちに集まっていた。
「ねぇ、離してよ……、離してよ!」
「嫌だ」
その顔からやっと言葉が出たみたいだった。
少しだけ枯れたその声に言葉の力はなかった。
「お願い!」
「嫌だっつってんだろ!!」
私に向けられるその怒鳴り声は、後先でこれっきりだった気がする。
心臓を強く握られて、首を締められ、挙句にナイフで頭を貫かれたような、その言葉に、私は座り込んでしまった。
それを見て彼は物凄く申し訳なさそうな顔をした。
「すまん。カッとなって」
そんなつもりじゃなかった。
とでも言いたいのか。
私はもう我慢できなかった。
声をあげて泣き出す。
子供のように泣きじゃくる。
「なんでよ!」
嗚咽の中に混じった私の言葉。
ただそれだけだった。
美晴がなんか言っていた気がするが、何も覚えていない。
気がついたらまた、あのお店にいた。