3、
「ねぇ、一枚頂戴」
「上げるのはちょっと」
「ケチいなぁ」
「なんと言われましても……」
ここは県内でも大きい方のライブハウスだった。
私はかなり困った。
どうやらプレゼントというのはこれらしい。
柘植くんは受付でチケットを買って私に渡した。
「ってか、柘植くんは入らないの?」
「俺顔パスだから」
意味がわからないのだが、つかつかと進んでいく柘植くんについて行くと、入口の人に挨拶され、され返していた。
そこで私はチケットを渡した。
でも、まだチケットがもう一つあった。
Drinkと書かれているそれを私は使い方がわからなかった。
「なんか飲む? カシオレ?」
いやいや、
「オレンジジュース……」
フェイドアウトで語尾を消した。
「オレンジジュースか。可愛いね」
顔が隠れているためわからなかったが、きっと笑われたに違いない。
つかつかと歩いていく彼を追って、そのドリンク券を使いオレンジジュースを手に入れた。
そして、どうやらこれから爆音が流れているあの部屋に入るらしい。
ガラス越しに見えるその場所には、ヘッドバックをしている人や、片手をグーにして上にあげ、思いっきし飛んでいる人や、体を左右に揺らしている人に叫んでいる人。
なんか、辺境地に来てしまったようだ。
離れたら一生のお終いだと胸を騒がせたので、柘植くんの服を適当に摘み、はぐれ無いように中に入っていった。
柘植くんがそれを感じたのかわならないけど、一番の安全地帯であろう少しばかりステージからは遠い空いている場所で止まり見ることにする。
舞台上では、汗を美しく輝かせながら、ギター、ベース、ドラムを奏で、歌を歌っている。
この暗い空間で唯一ライトを浴びているのはその人たちで、一瞬でこの世界に引き込まれてしまった。
もとからこういうのが好きだったから、入りやすかったのかもしれない。
そんなこんな考えていたら、どうやら今ステージに立っている人は終わりらしかった。
ってか、いつの間にか柘植くんいないんてすけど!
死の底に取り残された感覚に涙ぐみながら、ここから動いてはいけないという迷子の掟的なものを守る。
柘植くんはすぐに見つけられた。
ステージの上で、ギターを持って、伊達であろう眼鏡を外し、さっきのマフラーも不審者巻きではなく、オシャレにつけていた。
いや、それだけじゃなかった。
かっこよすぎた。
彼らが出てきた瞬間の声援と言ったら物凄いものだった。
それをなだめるようにボーカルらしい男性が手をひらひらさせていた。
「盛り上がるの早い。僕らの曲聞いて、今日は最高潮で帰ってくれ!」
そう言って始まった。
メンバーは五人。
ギター二人とベース、ドラムにキーボードの女性。
私は彼らが奏でるそれが、虜になった。
一瞬にして、Schnee leuchtet というバンドを知った。