28、
「……あの、そのあと何処に行ったかわかりますか?」
食が止まってしまった。
不味いわけではない。
不安なだけだ。
「何処ねぇ。ここでボーリングしてたから他には行ってないと思うけどなぁ」
要は知らない、と。
「なに? 気になる的な?」
「いえ、違います」
断言したが、自分でもわかるくらい弱々しい声だった。
「なに、またあれに捕まったのか?」
「そうなのよ土門。どうしてそこまでするのかしらねぇ」
「つったって、ただデートしてるだけだろ?」
「デートかどうかも怪しいじゃない。だってただ話しもしないのよ」
「なんで知ってるんですか?」
気になった。
尾行でもしていたなら話は別だが、勝手な妄想ならおかしな話だ。
「え? 本人から聞いた」
聞いた。
それはどこまで信憑性があるのか。
嘘?
可能性はある。
「まぁ、アイツが嘘つくとも思えないし、嫌いだしなぁ」
「そうなんだよね! 嫌い嫌いって言いながら行っちゃうんだもんね。ヤクザ絡みじゃない?」
「なきにしもあらずだな」
全て妄想だ。
ホントのことは知らないのだろう。
ただ、裏があるというのはわかった。
これでも推理小説はよく読むほうだ。
「ん? 食べないのか? 冷めちまうぞ」
「あ、すみません」
食べ始める。
やっと味がわかった気がした。
ホワイトソースはまろやかなのに少し刺激のあるブラックペッパーが食を煽る。
更にカラッとしている小刻みのベーコンもスパイスのようだ。
それを丸く収めているのは半熟の卵。
そして、チーズは香りを大切に乗っけられている。
美味しい。
「あ、今日初の笑顔もらいましたー」
「え?」
「なんか落ち込んでたでしょ」
「……そ、そんなこと」
「あれぇ、トイレで泣いてたの誰かなー?」
聞かれてた!?
体が熱くなるのがわかる。
顔は既に赤いだろうな。
「あははは。誰にも言わないから大丈夫よ」
「当たり前ですよ!」
「ごめんごめん」
そのあと、ワイワイと3人で話していた。
下らないこと。
本当に下らないこと。
でも、下らないことを話せるのって、本当に久しぶりだった。
ーーーー3年ーーーー
くらいだろうか。
「あ、こんな時間。あたしバイト行かねば」
「おう。金は払えよ」
「はいはーい。えっと、1500かしら?」
忘れてた!
「払いますよ!」
「いやいやー。泣いてた子に払わせるわけには行かないねぇ」
「もう、そのネタやめてください!!」
「あはははは! 時雨ちゃんがいい反応してくれるからねぇ」
「1450だな。はい、50円のお返し」
「はいどーも! ごっそうさま!」
「あ、ご馳走様でした」
「おう! また来いよ!」
外に出ると、もう日が暮れていた。
寒空は私たちを包み、一気に体を冷やす。
「クリスマス、ライブ行くんでしょ?」
「はい」
「誰から誘われた?」
「セラ君です」
「やっぱりね」
?
どういうこと?
「おっと! ちょっくらヤバイ。じゃぁね時雨ちゃん! 何事も負けるなよー」
どういうことだ。
ツッコミを入れようとしたが、片手を上げて駆け出していった彼女に、私はその場で手を振るだけだった。