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しぐれぐむ  作者: kazuha
無くならないで欲しいと願う
27/200

27、




 そのまま最寄りの駅に出て、一番近くの洋風のおしゃれな喫茶店に入った。



 皐月さんは慣れた足取りだすてすてとカウンターに座った。



「やー、土門! 元気かい!」


 彼女が土門と言ったバンダナをしている身長が高い、雰囲気怖い細身の男性はこっちをちらっと向いた。


「なんだ、皐月か」

「なんだとはなにさ! 食べに来たんだぞ!」

「はいはい。どうせ、和風オムライスだろ」

「ご名答」


 私は全くついていけなかった。

 そもそも、あの人怖い。


「っでさ……」


 うわ、見られた。

 殺される。


「時雨つったか? 座らねぇのか?」


 ……へ?


 なんで私の名前を知っているのですか?


 と聞けるわけが無かったが、皐月さんが代わりに聞いてくれた。


「え? あったことあるの?」

「あぁ。先週くらいにやったライブの後の打ち上げの時に。確かセラと話してたよな」


「あ、はい」




 私はまだ入口で立ち往生していた。

 とりあえず怖い。



「知り合いっつうか、見ただけだけどな。まぁどうせ美晴の友だちかなんかだと思ってな」

「さすが、見た目怖いクセにマメな奴」

「好きで怖いやっとらん」



 はぁ。

 なんか、わかんなくなってきた。


「いいから座れよ。話しづらいし」


 あ、はい。



 私はゆっくりと、包丁かスプーンかを投げられないか警戒しながら皐月さんの隣に座った。



「時雨、お前はどうする?」

「いいんじゃん? オススメってやつで」



 なにからなにまで勝手に決めないでください。



「今日のオススメはカルボナーラだ」

「あ、カルボナーラ好きです」

「650円。大丈夫だな?」

「はい」



 意外と優しい?

 と思った瞬間、意味深な嫌な笑いをしたので前言撤回。




「後悔すんなよな」



 それはどういう意味ですか?





 皐月が水を持ってきてくれた。

 そういえば店内はお昼時だというのに人が全くいなかった。

 確かに場所的にわかりづらい場所にあるのだが、さすがに1人もいないのはおかしな話しだ。


 氷の入っていない冷たい水で口の中を濡らした。


「土門ねぇ、料理上手いのよ。あんな風貌だけど」

「おいうるせーぞ」



 皐月さんが始めた会話を即座に止めに入る厨房からの声。


「こっちはお客だよ! 金払ってるんだからいいだろ」

「うるせぇ女はお断りだ」



 フライパンがジュッと唸る音がした。

 美味しそうな音だ。



「ドラムなんかより、こっちの方が本業っぽいのよー」



 今更ながら思い出した。

 ドラムの人だ。



「ってか、本業だっつうの」



 不思議な話だと思った。




「美晴のバンドって、ほとんど社会人ですか?」

「ん? そうだよ。晋三と土門とテラコさんは普通に社会人。仕事しながらバンドやってるわ。セラ君は時雨ちゃんと同い年。大学2年生」




 やっぱり不思議だ。

 どうやって知り合ったのか気になる。



「ってか土門! なんで昨日来なかったのよ!」

「昨日? なんかやってたのか?」


「なにって、みんなでボーリングしてたわよ」

「みんなってどうせカジと美晴ぐらいだろ」

「正解」

「バカか」



 ?

 ちょっと待って。



「昨日ボーリングしてたんですか?」

「そうなのよ。あたしのぼろ勝ち」

「飲みはオールですよね?」

「うんそうよ。なんで?」



「……いや、なんでもありません」




 やっぱり見間違えだった。

 よかった。



 そう思うだけで、涙腺がゆるくなった。




「お待ち」




 目の前に出されたのは、カルボナーラだった。


 いや、頼んだから当たり前なのだが。


 フォークで一口食べる。





 なんだか、安心する味だった。




「まぁ、そのあと例の女に捕まってたけどね。嫌々に」








 無神経?


 いや、私が望んだ答えだ。

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