27、
そのまま最寄りの駅に出て、一番近くの洋風のおしゃれな喫茶店に入った。
皐月さんは慣れた足取りだすてすてとカウンターに座った。
「やー、土門! 元気かい!」
彼女が土門と言ったバンダナをしている身長が高い、雰囲気怖い細身の男性はこっちをちらっと向いた。
「なんだ、皐月か」
「なんだとはなにさ! 食べに来たんだぞ!」
「はいはい。どうせ、和風オムライスだろ」
「ご名答」
私は全くついていけなかった。
そもそも、あの人怖い。
「っでさ……」
うわ、見られた。
殺される。
「時雨つったか? 座らねぇのか?」
……へ?
なんで私の名前を知っているのですか?
と聞けるわけが無かったが、皐月さんが代わりに聞いてくれた。
「え? あったことあるの?」
「あぁ。先週くらいにやったライブの後の打ち上げの時に。確かセラと話してたよな」
「あ、はい」
私はまだ入口で立ち往生していた。
とりあえず怖い。
「知り合いっつうか、見ただけだけどな。まぁどうせ美晴の友だちかなんかだと思ってな」
「さすが、見た目怖いクセにマメな奴」
「好きで怖いやっとらん」
はぁ。
なんか、わかんなくなってきた。
「いいから座れよ。話しづらいし」
あ、はい。
私はゆっくりと、包丁かスプーンかを投げられないか警戒しながら皐月さんの隣に座った。
「時雨、お前はどうする?」
「いいんじゃん? オススメってやつで」
なにからなにまで勝手に決めないでください。
「今日のオススメはカルボナーラだ」
「あ、カルボナーラ好きです」
「650円。大丈夫だな?」
「はい」
意外と優しい?
と思った瞬間、意味深な嫌な笑いをしたので前言撤回。
「後悔すんなよな」
それはどういう意味ですか?
皐月が水を持ってきてくれた。
そういえば店内はお昼時だというのに人が全くいなかった。
確かに場所的にわかりづらい場所にあるのだが、さすがに1人もいないのはおかしな話しだ。
氷の入っていない冷たい水で口の中を濡らした。
「土門ねぇ、料理上手いのよ。あんな風貌だけど」
「おいうるせーぞ」
皐月さんが始めた会話を即座に止めに入る厨房からの声。
「こっちはお客だよ! 金払ってるんだからいいだろ」
「うるせぇ女はお断りだ」
フライパンがジュッと唸る音がした。
美味しそうな音だ。
「ドラムなんかより、こっちの方が本業っぽいのよー」
今更ながら思い出した。
ドラムの人だ。
「ってか、本業だっつうの」
不思議な話だと思った。
「美晴のバンドって、ほとんど社会人ですか?」
「ん? そうだよ。晋三と土門とテラコさんは普通に社会人。仕事しながらバンドやってるわ。セラ君は時雨ちゃんと同い年。大学2年生」
やっぱり不思議だ。
どうやって知り合ったのか気になる。
「ってか土門! なんで昨日来なかったのよ!」
「昨日? なんかやってたのか?」
「なにって、みんなでボーリングしてたわよ」
「みんなってどうせカジと美晴ぐらいだろ」
「正解」
「バカか」
?
ちょっと待って。
「昨日ボーリングしてたんですか?」
「そうなのよ。あたしのぼろ勝ち」
「飲みはオールですよね?」
「うんそうよ。なんで?」
「……いや、なんでもありません」
やっぱり見間違えだった。
よかった。
そう思うだけで、涙腺がゆるくなった。
「お待ち」
目の前に出されたのは、カルボナーラだった。
いや、頼んだから当たり前なのだが。
フォークで一口食べる。
なんだか、安心する味だった。
「まぁ、そのあと例の女に捕まってたけどね。嫌々に」
無神経?
いや、私が望んだ答えだ。