23、
電車に乗って23分。
いつも通りに1番栄えているであろう街に出た。
少し暖かい陽気は、帽子も手袋も外させた。
今日は人が多い。
まぁ、そろそろクリスマスだし当たり前っちゃぁ当たり前なんだろうけど、しかし如何せん苛立つものだ。
駅を出て商店街に出る。
入口には小さなツリーが飾られ、街灯ひとつひとつにはリースが掛かっている。
見上げればサンタとトナカイを思わせるLEDが釣り下げられていた。
お店はというと、クリスマス用品と書かれたもので埋まっていた。
もうそんな時期か。
先日ハロウィンがあったらしいが、なんやかんや気にしなかったからか、もう既に冬が目の前に広がっていた。
ため息が零れる。
取り敢えず、少し回ってみよう。
行きつけのCDショップに入り、手当たりしだいに曲を聞いてみた。
デスメタルやクラシックまで、多種多様に漁ってみたが、やはりピンと来なかった。
なんでなんてわからないが、腑に落ないのだ。
激しさや落ち着きではなくて、人間そのものが描かれたそれが好きなのかもしれない。
うん、口ではなんとでも言えるけど、やっぱりなんとなく好きなのだ。
そう、あいつが作った、曲が。
そういえばアイツがアレスだったんだな。
最近急に出た無名の作曲家。
ダンドリオンと共に急に出てきた名前。
今では超有名アーティストとかの作曲をしていて、いわゆる売れっ子としてその名は有名だ。
そんな凄い人が、私の知り合いだなんて、誰が信じてくれるか。
まぁ、信じてくれなくてもいっか。
私だけの秘密みたいでなんとなく嬉しいし。
……嬉しい?
なんで嬉しいんだろ?
私はアイツの、美晴の、柘植くんのなんでもないのに。
こっぱずかしくなって、聞いていたダンドリオンの曲を止めてヘッドホンを外した。
久しぶりの1人。
今更感じる孤独。
周りの人に指を刺され、笑われているかのような錯覚。
あぁ、嫌だな。
こんな被害妄想。
もう、慣れ捨てたはずなのに。
取り敢えずお店の外に出た。
新鮮な冷たい空気を吸って、ゆっくり吐く。
それだけで落ち着けた。
体を冷やす空気は私の霞を清らかにしているようだった。
まだ完全に落ち着いた訳でもないので、落ち着ける場所に行こう。
それから帰っても文句は言われないだろう。
まぁ、落ち着ける場所なんて図書館くらいしか無いのだが。
ってことで、図書館でも寄ってから帰ろうかな。
足取り重く向かった。
図書館まではそこまで距離はない。商店街を抜け、ホテル街の通りを横目に過ぎた辺りの角が図書館だった。
私は平然と歩いていた。
――――ホテル街から出てくる美晴を見つけるまでは。
相手は、あのウザイ女だった。
べっとりと腕を絡ませてくっつき、女が男の頬にキスをした。
見間違いだ。
そうに違いない。
見間違いだ。
黒い服の人なんていっぱいいる。
反射的に私は電柱の後ろに隠れた。
ホントに、ホテルから出てきたの?
私の疑問に答えてくれるのは誰もいなかった。
歩きだそうとしていた。
こっちに来られるとここに隠れていることがバレてしまう。
来るな。
来るな。
お願いだから近寄らないで。
美晴だと断定したくない。
私の願いが届いたのか、運良く彼は私のいる方とは反対の道に歩いていった。
足に力が入らなくなりその場に倒れるように座りこんだ。
なんでかなんて知らない。
私はアイツのなんでもないんだ。
私はアイツのなんでもないんだ。
落ち込んでいる?
泣きそうなのは確かだ。
なんで?
もし美晴に彼女がいたって不思議じゃない。
ましてや私よりセンスがいい彼女が私より先に選ばれるなんて一目瞭然じゃないか。
そうだよ、
いくら泣いたって、私はアイツのなんでもないんだ。