21、
新しいオレンジジュースを口にしたら何故か美晴が側に来た。
生ビールは最早何杯目だろうか。
だいぶ酔っていた。
「おい、皐月。一気すんぞ。一気」
「してなよ勝手に」
「見てろよ」
と言って満タンあった中ジョッキの生ビールを一息に飲んだ。
「どーら」
もう、滑舌が死んでるようで1度頭のフィルターを通さなければ全くわからない異世界の言葉となっていた。
「すごいすごい。よくできましたー」
皐月さんはそれを流すように頭を撫でる。
するとどうだ。美晴のやろうが勝ち誇った顔でドヤっていた。
なんかムカつく。
「なぁなぁ、見たかよ時雨」
「う、うん」
「飲んでるか?」
「う、うん。ほら、オレンジジュース」
「あ、それファジーネーブルよ」
一瞬なにを言ったのかわからなかった。
それがお酒が入っているよという意味だとは誰が予想しただろうか。
「ちゃんと飲んでるな」
はめられた。
いつの間にか飲まされていた。
気づかなかったことに私は世間知らずなんだと思う。
っとその時に晋三さんが近づいてきてこう言った。
「そろそろ終電なんじゃないか?」
私は貰った時計を見た。
最早反射だった。
カバンとかコートとかマフラーとか、全て取り、この居酒屋から出ていく。
少しだけ頭がくらくらする。
お酒ってこんな感じなのか。
飲んだのは極僅かだったけど、私はお酒に弱いというのがわかった。
ダッシュしたおかげか終電に間に合った。
ほぼ満員の電車の中でドアに張り付きながら息を整える。
電車内は暑いくらい暖房がかかっており、鼻先を赤くした私はマフラーを緩めた。
息を吐く度にドアのガラスは白くなり、また元に戻る。
そのガラス越しに見えるのは都会の光りと少し行くと自然の闇が現れていた。
なんとなく自分が変わっている気がした。
なんにも自分が変わっていない気がした。
なんでそんなこと急に思ったのかわからない。
お酒の影響だろうか。
ただ、漠然と目の前にいる不安に私はマフラーを固くしめた。
さぁそろそろ行かなければ。
明日は休日だ。
何をしよう。