200。
そこには既に全員が集まっていた。
せかせかと料理を並べている土門さんと皐月さん。
一先ず飲み物を注いでいるテラコさん。
話をしている星空くんと晋三さん、さらに奈保美さんと大智。
「よ。遅くなった」
そこに、私と夕夜。
これで全員だ。
「遅せぇぞ。つってもまだ準備終わってないけどな」
「手伝いますよ」
「あぁ、平気だ。あと盛り付けだけだからよ」
「もう! 早く帰ってきーやー! 怒るで!」
「おう! 少しぐらいいいだろ!」
「話ぐらいいつでもできるやろ!」
「わーたわーた! 今行くで!」
移った?
くすっと笑ってみんなが座っている辺りに向かった。
「時雨ちゃん!」
いきなり抱きついてきたのは星空くんだった。
一応この人は社会人です。
「おら! くそガキ! 俺の女に触れるな」
「へーんだ! 僕のだし」
私は面白くて、ついつい星空くんの頭を撫でてしまった。
「時雨もなにやってやがる」
「撫でてるだけだよー」
「そうじゃなくて、何故している!」
「え? 面白いから?」
夕夜の溜め息が聞こえたところで、皐月さんが出てきた。
「終わった終わったー」
「あらお疲れ」
「ありがとうございますってテラコさんは座っててや!」
「あら、まだ大丈夫よ。ちょっと出てきたくらいだから」
その声に私はそっちに目をやった。
「そういえば、おめでとうございます」
「時雨ちゃん。ついでってどうなの?」
「ついでじゃないと言えなかったので」
星空くんを他に置いて、テラコさんに寄ってお腹を触らせてもらった。
「ホントにちょっとですね」
「そうなのよー。そろそろ重くてかなわないわ」
「太ったあたりから知ってるであたし」
「余計なことを言わない!」
「始めるぞ」
晋三さんの一言でみんなが机の周りに座る。
各々飲み物を取り静かに乾杯をした。
三回忌も出れなかったから、今年は来ることにしていた。
墓参りと親に顔を見せるだけで帰ろうと思ったけど、久しぶりだから会おうということになった。
三回忌来れなかったのは呼ばれなかったからなのだけど。
積もる話があった。
やっと立ち直れたから。
出版も本当は嫌だった。
自分の過去を全体に広げる必要がなかったから。
ネット小説に投稿したのも、自分の気持ちを収めるためだった。
しかし、有名になりすぎた。
出版してもメリットはない。
だけど、なんとなくみんなに知って欲しかった。
彼の死は直ぐに記憶から消え、曲も全て消えていった。
今でこそ星空くんがそれをソロでカバーしているが、もはやそれが本物のようなものだった。
彼の死後、ダンドリオンもアレス作曲の曲を歌わなくなると、みんな逃げて行くように消えた。
いまでこそ訳のわからないバンドでやっているけど、あの時ほど有名ではなかった。
「っで聞きたいんだけど、その新曲」
奈保美さんがカクテルを飲みながらそう言った。
「え!?」
「だってよ。時雨」
夕夜が立ち上がった。
「いや、でも……」
「いいじゃん姉ちゃん。減るもんじゃないし。誰も聞いてないよ」
大智も立ち上がって2人してピアノの方へ向かって行った。
「そうそう。むしろ、みんなに聞いて欲しいんだろ?」
「相変わらず、ゾッコンだしねー。可哀想に」
「あ!? ぶっ殺すぞ!」
「言ったってそんなことできないじゃないですか、カジさん」
いつの間にか2人の準備は終わっていた。
はじめから歌わせる気だったらしく、マイクからアンプからなにからなにまで置かれていた。
私は溜め息を吐いた。
「もう、わかったわよ」
私も立ち上がった。
そして、ピアノの前に向かった。
「ドラムどうするの?」
「え? なくていいだろ。上手くもねぇんだし」
そして勝手にギターを弾き始めた大智。
「なら早速いきますか」
夕夜はベースを鳴らす。
「あとは時雨のペースでどうぞ」
「もう……」
スパンワンリング。
4人のバンド。
私はその作詞家。
芸名を、アレスとして今や売れっ子である。
誰もしらない。
アレスが生きているということを。
今日は赤い髪のカツラは持ってきていないけど、まぁしょうがない。
私も1番はじめの音を弾いた。
本当は大智が歌うのだけど、今日は私らしい。
曲名は、美しき晴れと月。
これが私の答えだった。
そう、私は所詮時雨。
晴れの反対を降る存在。
一生結ばれることのないことを私は歌う。
今は、もっと大切な人のために。
答えを出す。
あなたが、美しき月を見ようとするように、私も、美しき晴れを見ようとする。
ないものねだり。
そのないものを、夕闇が見せてくれる。
私は美晴が好きだった。
忘れることのない記憶も、日記に書かれている。
2年の記憶。
今この数分に詰めた。
私の最後の曲。
綺麗に響け。
時雨時。
外はいつの間にかしとしとと雨が降っていた。
晴れた空がしぐれぐんだ。
今まで読んで頂き、誠にありがとうございました。
楽しんで頂いたでしょうか?
私的には上出来だとおもっております。なぜならば、これ程の長い物語をしっかりと書き終えたからです。ですので、ここまで辛抱強く読んで頂いた皆様には感謝しきれません。
評価、感想などございましたらどしどしお願いします! なんでも受け止める覚悟はできています!
本当にご愛読ありがとうございました。また、いつかお会いいたしましょう。