2、
あの日から一週間がたった。
秋雨なのか、最近雨が多い。
私はCDショップに寄り、今日発売したはずの、好きなバンドのCDを買おうと店内を歩いていた。
いやね、まさかダンドリオンがまたアレス作曲の曲やるとはね。
買わなきゃ損そん!
すぐに見つかったが、残り僅かなのは見て取れた。
自然と足早になる。
この日のために、少しだけ食費を抑えていたのだ。
ああ、二週間お昼百円で過ごすのもなかなかの苦行であった。
うんうん。
手を精一杯伸ばしてそのCDを取った。
やったぁ!
そう思ったが、なにか手触りが変だった。なんていうか……骨張っている?
こんなこと、小説の中の話だけだと思っていた。
触れた手を引き戻して、その本人の顔を確認した。
「あ、」
「……あ!!」
無事CDを買いルンルン気分でお店を出た。
隣には、あの柘植くんがいるが。
「偶然だったな」
黒いマフラーで口を隠して伊達であろう黒縁の眼鏡をしていても、その顔に見覚えがないわけがなかった。
「ほんっと。こんなところで会うとわね」
正直笑ってしまう。
お互い同じバンドが好きで、お互いギリギリだったから手が触れたとか誰に喋っても信じてくれないだろう。
「あ、そうだ。あの時のお礼、ちゃんとしたいからさぁ、どっかで食べていかない?」
柘植くんは私の方をチラッと見て、
「ゴチになります」
と小さく呟いてマフラーを上げた。
それを見て私も落ちたマフラーの端を投げるように肩にかけた。
ファストフード店はなかなか賑やかであった。
しつこく降る雨の影響なのはわかっているが、ここの商店街、屋根があるからある程度は他の所にも行けるはずなのだが……。
私たちは向かい合わせに座り、買った一つのセットメニューと一つの飲み物を乗せたトレーを机に置いた。
羽織っているコートとマフラーを脱ぎ、椅子にかける。
私は飲み物だけを取り、トレーを彼の所に押した。
ストローの入っている袋を破り中からストローを出してカップに刺し、一口飲んだ。
「ってか、名前」
あ、そういえば私、名前言っていなかったわ。
「ごめん。そうだったね。私、黄金沢しぐれ。時に雨って書いて時雨」
「珍しい名前だね」
柘植くんはハンバーガーの包み紙を綺麗に外しながらそう言った。
「時雨って、ここ最近の通り雨だよね。この時期が誕生日なのかな?」
私は困った。
いや、答えたら困るだろうと思ったからだ。
しかしながら、答えないのもなんだか悪い気がしたので、私は重たい口を開けて答えた。
「実は……今日なんだ」
柘植くんは、ハンバーガーを食べようと口にする入れようとした状態で静止していた。
視線を反らしていた私はちょっとづつ柘植くんに移していくと、口の端がクイっと上がった。
「そうなんだ、おめでとう」
ハンバーガーを私に突き出してそう言った。
プレゼントのつもりなんだろうが、私は丁重にフライドポテト半分だけでいいと断った。
「そうか、誕生日なのかな」
彼は感慨深いと言うような顔をして、ニヤッと笑っていた。
なにか、悪いことでも考えているような、そんな感じだった。
「じゃぁさぁ、もう一つプレゼントあるんだけど、一緒に着いて来てくれない? 変なことはしないから」
そう言われて怖くならないはずがない。
一度は断ったが来て欲しいの一点張りだった。
私は根負けした。
最後のポテトは取られ、仕方なくコートとマフラーを着て、立ち上がり柘植くんがトレーの上のゴミを捨てるのを見送ってから、お店を出た。
彼が向かう先に何があるのかわからなかった。
少しだけ後ろをついて行く。
意外と、背中が広いんだなって、ここで思った。