199、
あれから何年が経っただろうか。
3年くらいか。
私は1冊の文庫本を閉じて一息ついた。
なかなかの出来だ。
私の感想はそんなものだった。
日記をポエム調に書いたら、意外と流行りとうとう文庫本になったのだ。
私と美晴との、物語。
出会ってから彼が死に、そして私が太陽と月を合わせた話を知ったまで、私の人生を書き上げた。
読み返すと、未だに感情的になれる。
立ち直れたとか忘れられたとか皆はそんなことを聞くけど、そんなこと私にはわからない。
なにせ、私の人生は新しい道を歩いているからだ。
思い出せばまだ涙は流れるし、なかったことになんてできない。
それほど、私にとっては大切な人だった。
新幹線がそろそろ故郷に着く。
今日は美晴の命日だ。
だからと言ってなにかをするわけでもない。
久しぶりにみんなに会うのだ。
隣で寝ている夕夜を起こして、駅に着くのを待った。
駅に着き、久しぶりの優しい風が歓迎をしてくれた。
空気が気持ちいい。
東京に住んでから3年も帰ってなかった。
忙しかったこともあったけど、なにより帰ってこれる心情ではなかった。
「晴れてるな。快晴だ」
頭を掻きながらそう言い、欠伸を1つしてみせた。
「雨じゃなくて良かったわよ。あいつに会いに行くのに雨だと馬鹿みたいじゃない」
私は彼の手を取り、次の駅に向かった。
久しぶりで忘れていたが、40分くらいの電車に揺られ、やっと降り立った場所に懐かしさが急に込み上げてきた。
「ねぇ、お墓行く前にプラネタリウム行っていい?」
「……。っけ。ホントに美月みたいだな。……いいぜ」
昔、星空くんに連れていってもらったプラネタリウム。
それは天井に映し出される幻想。
美月さんはそれを見てなにを悟っていたのだろうか。
私に知る手立てはなかった。
プラネタリウムを見終わると、こっちに置いてあった夕夜の車で墓地まで行くことにした。
墓地に着くと、花とかお線香とかを買い、直ぐに美晴の元にへと向かった。
そこには既にお線香がくゆり、花が活けてあった。
誰かが先に来たようだ。
美晴の墓は美月さんの墓の隣になっていた。
これは私の提案でこうなったのだ。
2人はこうしていた方がいい。
隣の美月さんの墓も同じ人が墓参りに来ていたようだ。
私は2人に挨拶をして、カフェに向かう。
そこでみんなと待ち合わせをしている。
そう言えば、あのあとサチレは解散した。
そして、晋三さんとテラコさんは元の会社に戻った。
テラコさんに至ってはようやく結婚出来たみたいで、現在妊娠4ヶ月目だ。
テラコさんの夫さんも今回の会に呼んだのだが、邪魔だろ、と一脚されたらしい。
晋三さんと奈保美さんは相変わらず孤児院をしている。
その資金はどうやら星空くんが出すようになったみたいだ。
星空くんはソロデビューを本格的に始め、今ではシンガーソングライターの新星とも言われる程だ。
土門さんはカフェに戻り、皐月さんと一緒に働いている。
そして、ようやく、2人は、付き合い始めました!!
土門さんがもどってから、皐月さんはいつも通りだったらしいが、最近になってとうとう好きだと言ってしまったようだ。
今までは土門さんには美月さんと、自分の心を捨てるようなことを言っていたのだが、なにが原因か知らないけど、私が自分の本を上げてからすぐだったな。
なにが原因だろうね?
っで因みに、大智、私の弟はと言うと、今や旧ダンドリオンのリードギターをやっている。
スパンワンリングというバンド名だ。
相変わらず、よくわからないバンド名だ。
「ついたぞ」
「うん」
車は止まると、目の前にはなにも変わっていないそれがあった。
シックな造りに、よく探さないとわからないその店。
私は一足先に、その扉を開けた。
カランカラン。
軽い音が鳴り響いた。