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しぐれぐむ  作者: kazuha
しぐれぐむ
198/200

198、




 私が知ってる範囲は本当にごく一部だった。


 それは私が幸せでいられる最大のこと。


 これから先は誰も得しないし、私自身気持ちの整理がつかないまま美晴のことを想い出として記憶に葬ることになる。



 しかし、これが答えだ。




「美晴は、ずっと好きだった。私じゃなく、美月さんを。ずっと前から。大好きな人を傷つけた。そのせいで死んだ。じゃぁ、なんで私にあんなに絡んできたのか。ただのお人好しなのかもしれないけど、記憶の片隅にやっぱりいる。最初から私なんて見てなかった。事故の前触れも私は察してた。でも、止められなかった。他人を助けて自分が死んじゃ意味無いじゃんか。私のことより、美月さんの言いつけを守るのか、自分の柵に喰われるとか、ただのバカじゃん。私はここにいる。美晴。それでも、私を見なかった。道具だったかもしれない、本気だったかもしれない、記憶だったかもしれない。それでもただ1つ、必ず守ったって言うの? 私の言いつけなんかより。なんでよ。死んだら悲しむよ。永遠に泣くよ? それでいいの? あんたの好きな美月さんに似た人がそうなるよ。あんたみたいに、また人を柵へと追いやって、そのまま奈落へと落とすの? 悪循環よ。自分で作った自分への柵に捕まってなにもできなくなっただけじゃない。そんなのに人を巻き込むんじゃないよ。もういい! 美晴、あんたみたいなバカな奴もう知らない! 今までの記憶のキャパシティを返せ! お前なんか忘れてやる! 自分勝手な奴なんて嫌いだ大っ嫌いだ! バカ美晴! 大好きなんだよ!!」



 美晴は昔、美月さんを殺しかけた。


 いや、実質的に殺したという解釈をしたのかもしれない。


 それを根に深くキズをつけたのかもしれない。


 それを埋めたのは美月さんの言葉だったんだろう。


 全てを愛することで、自分への劣等感を塞ぐことができた。



 ただ、それは卵の殻のようなもの。



 強く叩けば割れる。



 それを私がしてしまったのかもしれない。



 美晴とカジくんの意味深な会話に、私は入れないでいた。


 カジくん自身、美月さんが好きだった、でも本人が選んだ人を応援した。


 美月さんにとってそれが1番よかったから。


 諦めた人が他人の手によって傷つけられ、見放され、死んでいく。


 たまったものではないだろう。



 許せなかった。


 内心、死ねばいいと思っていたに違いない。


 精神的に追い込んでいく。



 本当に上手くいったのかもしれない。



 私がそのカジくんに植え付けられた杭を取ってしまえばよかったに違いない。



 結局、私はなにが出来た?


 彼のために、なにをしてあげた?



 殺しただけじゃないか?




 いや、違う。


 美月さんになったのだ。



 これで、私は本当の、似ている人でなく、そのものだ。



 たしか、美月さんは記憶にある時に捨てられた。


 なにもかも失って、それから何もかもを愛した。



 愛した結果だ。


 愛は牢獄とよく例えられるが違いないのかもしれない。


 美晴もカジくんも、星空くんも結局はその牢獄の中。


 そこから出ると、世間知らずで死ぬ。


 今まで家の中で飼ってきた犬をリードなしで散歩させたようなものだ。



 美晴を繋いだリードは消えていた。


 リードなんてどこにあったんだろう。


 その答えが出たのはかなり先の話しだった。



 泣き喚く。



 涙が地面に落ち、小さな水たまりができていた。



 美月さんの記憶。


 それは、きっと私みたいに、涙ぐむーーーーしぐれぐむーーーー美晴だったのだろう。



 愛は必要だ。



 違う。



 物語が愛だ。



 人はその過程を楽しむもの。



 結論、私は恋愛をしたことになる。




 美月さんが言いたかったことはそういうことだろう。




 世の中、結果とかそういうのばかりを考えず、過程も大切だと。



 美月さんは、自分の死という結果より、自分との記憶を大切にして欲しいと言ったのではないだろうか。



ーーーー私にはそれがしっかりと残っている。



 しぐれぐむ私は涙を拭いた。



 全てを話し終えたのかなにも語らなかったみんなを見て、笑顔を見せた。



「愚痴ったら少し、楽になりました」




 悲しむのをやめよう。


 美月さんが望んでいない。



 しぐれぐむ私はまっすぐ世界を向いた。


 これからどうしたいかなんてまだ考えていない。


 予定が天変地異の如くひっくり返ったのだから。




 とりあえず、この部屋を片付けることだけを考えよう。


 まだ残ってる、その愛のために。

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