196、
罪滅ぼし。
それは、美月さんを死の病に罹患させ、尚且つ土門さんへの謝罪なのだろうか。
それはなにか違う気がした。
「そんなことより、サチレ結成の……」
「それは僕から話させて」
今までだんまりを行使していた星空くんが急に言葉を発した。
「時雨ちゃんが知ってるのは、美晴が入る前のサチレで、カフェで演奏したときにたまたま美晴がそこにいて、無理やり入ったって感じじゃないかな? それは、土門だけが思ってること。昔、晋三とテラコさんと奈保美とが一緒にバンド活動をするときに、お姉ちゃんが孤児院でお留守番して、3人でそれを見に行ったんだ」
「テラコとは高校から友達だからな」
「土門さんのお父さんが招待してくれたライブだったわねぇ。あの時は久しぶりで楽しかったわぁ」
「……で、その時にバンドやりたいってなって、みんなギターがいいって言って、じゃぁ誰が始めにバンド組めるかってなった時、美晴が1番始めにテラコさんに、『オレのバンドに来ないか』って言った時には負けた気分になったよ」
そんなことがあったんだ。
私は記憶の中を巡るが、全く持ってヒットしなかった。
「それから、土門がやりたいらしいからってバンド組んで、そこにお姉ちゃんが入った。僕らが見に行かないわけがないじゃん? 何度も何度も」
そして、彼女は息を引き取った。
「姉ちゃんが死ぬ間際になって、僕に、彼を助けてあげてって言うんだ。僕としては、あんないけ好かない、お姉ちゃんを奪った人なんて嫌いだったけど、お姉ちゃんの頼みだから僕は今でもそうしてる」
「そのことだけど」
奈保美さんが急にそう言うのだから私がそっちに耳を向けた。
「美月は事故当初の入院中に3人にずっと言い聞かせてたことがある。どんなものにも優しく、どんなものにも厳しく、どんなものにも愛を持ちなさい。例えそれが、どんなものでも」
いったいどういう意味が含まれているのだろう。
「それを死ぬ間際まで言ってた。そう、誰にでも優しくって。それを1番忠実に受け入れたのは、ヨシだった。わかる? あのバカはそれだけで、カフェに金を出し、孤児院に金を出し、そのために好きでもない人を愛し、自分のできる範囲ですべてをこなしていった。そう、それだけであのバカは死んだのよ」
ただそれだけ。
偉いではないか。
純粋に純白に、正しさに生きて正しさに潜って。
愛しているものが死にそうなら、助けてあげられるなら、彼がそうしたのなら私はそれが正しいと思う。
「少しはひねくれることも必要だった。カジみたいに強さを振るなり、星空みたいに魅力を振るなりすればよかった。まっすぐな出来の悪い子供だったよ」
「ここからはオレが話そう。ただ1回だけ、見たことがある。美晴と美月が付き合っているところを」
晋三さんが重たい口を開けた。
あまりに衝撃すぎて、涙が止まった。
「別に血が繋がっているわけじゃない。だから成立している。そんな御託より、ここからはオレの想像だ。よく聞けよ? もし、2人が今でもお互いが好きだったら、だ」
恐ろしい話だ。
「いや、事実好きであったはずだ。よく読めこれを。この曲を。間違いなく時雨に書かれた曲だろう。ただ、もしこれが美月に向けられた曲だとしたらどう思う?」
私は今一度、その無色の紙を見つめた。