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しぐれぐむ  作者: kazuha
しぐれぐむ
193/200

193、




 駆け込んだ病院には多くの報道局の人がその事故の結末を知りたがっていた。


 私は急いでカウンターに言って中に入れてもらった。



 看護師さんが同行してくれた。


 長い長い廊下を進んで、エレベーターで三階。


 そしてまだ長い廊下を進んでやっとのことで着いた扉がそこだと言った。



 私は恐る恐るそれを開ける。


 この先に、どんな状態の美晴がいるのか。


 また、バカみたいに笑っているのだろうか。


 それとも、色々な医療機器がつけられてしまっているのだろうか。



 いずれにしても、生きていて欲しかった。




 ピーっという音でさえ聞こえて欲しかった。



 無音がこの場を制していた。


 土門さんは窓際で、


 晋三さんは壁に寄りかかって、


 テラコさんは隣で、


 星空くんは何もない場所で、



 その白く長い布が顔にかけられている、ベットに寝かされた状態の、美晴を見ていた。




ーーーー白い布ーーーー




「時雨……ちゃん……?」



 星空くんが1番始めに私に気付いた。


 そして直ぐに近づき、放心状態の私を抱き寄せた。




 かなり強く、私の体を締め付けた。



 なにが起きているのか、

 どういう状態なのか、




 私はわかりたくなかった。


 それを否定したかった。


 実はドッキリ、サプライズ!


 そうなって欲しかった。


 だってこれじゃ、こんなんじゃ、やるせない気持ちしか生まれないよ。





 1年待った。


 やっと会えた。





ーーーーそれが死体だなんて、誰が考えたか。



 明日、ライブで彼を見て、そのあとは積もる話をして、将来の夢を語って、なんでも見せあって……、そんな幸せのひと時が訪れると思っていた。




「ねぇ、美晴。起きてよ」



 身動きもしない人形。



「ねぇ、……美晴」



 私は1歩前に進もうと思った。


 しかし星空くんがそれを許さなかった。



「離してよ。どうせまだ、生きてるでしょ?」



 それでも私を1歩も進ませないのだ。


 なんだってそんなことをするのか。



「ねぇ、見せてよ。せめて見せてよ!!」



 私は力一杯その手の中から出ようとしたが、結局数ミリも進めなかった。



「ねぇ! 星空くん! 通してよ!」

「ごめん、それはできない」

「なんでよ!! なんでよ!!」

「ごめん」

「バカ! 私は!」

「あんなの見せられないよ! あんなの! ……あんなの美晴じゃない」



 どういう意味だ!


 違うのか!


 美晴じゃないのであればそれは誰なのか!


 真実が知りたかった。



 その真実を。




「ねぇ、……じゃぁ、美晴は……どこにいるのよ……」



「ーーーー……死んだよ。即死だって」







 目の前を闇が襲った。



 どうやら意識を失ったらしい。





 目を覚ましたら、どうやら病院の一室に移ったようで、隣に晋三さんがいた。


 意外と意識も気持ちも、冷静でいた。


 少しは落ち着いたのだ。



 目を覚まして冷静になれていたその状態で、晋三さんが教えてくれた。



 晋三さん、星空くん、美晴で買い出しに行っていたらしい。


 その帰り、公園を横切る時に子供が道路に出ていったのを助けに走った。



 子供はギリギリで間に合ったが、美晴はトラックに激突。



 そのあと言いづらそうに、晋三さんは話を続けた。


 トラックに引かれた。


 その時に顔から突っ込んだらしく、顔の半分が潰れた。


 トラックの方もよそ見と制限速度をゆうに超える速さのせいで、美晴は50メートル以上突き飛ばされた。


 その時に、骨という骨が全部バラバラになってしまったらしい。


 レントゲンには、骨の原型すらなかったと言った。


 辛うじて今は鉄棒とかを骨に見立てているが、中身は粉々だという。







 晋三さんの話を聞いて、私は星空くんに感謝しなければならないことを悟った。



 見ていたらどうなっていただろう。



 私にはわからなかった。



 しかし、それはもう一生彼を見ないで永遠の別れを告げるのと同等の感覚だった。




 私はどっちを選ぶのか。


 今すぐに見に行くか、見に行かないか。






 そんなことより、もう涙が溢れて止まらなかった。




 覚えていたのだろうか。

 美晴は私との約束を。




『約束して! もうこんなことしないって』



 覚えていたのだろうか。




 それを知っているのは、誰なのだろう。



 全ての謎が、本当に闇の中に消えていったようだ。



 もう永遠に、美晴のことをわかってあげられない。



 無力さと寂しさと苦しさが入り交じって大きな虚無感を抱く。




 落ち着いたはずなのに、体は崩れていく。






 いい加減に、嘘をつけないようだった。

 冷静を装うことができないようだった。




「よし……はる……。よしはる! よしはるぅ! うああああああああああああああああああああああああああああ!!」




















ーーーーそうして、私と彼の3年間は終わったーーーー

















ーーーーはずだった。

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