191、
蝉時雨も止み、木々は皆色を変え全てをその鮮やかなまでに輝かせていた。
そろそろ東京に行く準備を始めた。
滞在はひと月くらいだろうということで、色々なものを入れていた。
持っていくキャリーバッグもかなり大きいやつを用意した。
鼻歌を歌いながら、私は準備に専念していた。
洋服、洋服、洋服、洋服、洋服……。
とりあえず1週間分の洋服を用意するにも、上着やらなんやらを入れていかなければならないのでかなりかさばる。
そこにスーツなども入れて行くのでもう既にキャリーバッグの中は溢れかっていた。
スーツは手で持っていくか。
コートは諦めるか。
試行錯誤を繰り返し、なんとか収まるくらいまで詰め込んだ。
行くのが楽しみ。
それは間違いない感情。
しかしそれと共に不安があった。
やっぱり気になる美晴の罪。
聞いてはいけないこと。
知ってはならないこと。
そんな美晴の闇なのならば、それまでも私は愛してあげなければいけない。
そうでなければ、美晴をほぼ永久的に助けてあげられないと思う。
その都度その都度でむしろ傷付けるだけだと思う。
キャリーバッグを閉めた。
全体重を乗っけても閉まらなかったそれは、大智がやるといとも簡単に閉めてしまった。
「オレも行きたかったなぁー」
閉め終わって急にそううなだれる。
「そういえば、なんで行けなくなったの?」
「お母さんが、行きはいいんだけど、帰りは1人じゃない? 大学生になったとは言えまだ心配だからっだってさー」
「あら。厳しいのね」
いつもならOKしそうなのだが、なぜか今回は親面している。
「あぁー、なんかないかなぁ。方法」
「ないんじゃない?」
「だよねぇ」
大智も今回は無理だとわかっているのだろう。
小さく溜め息を吐いて立ち上がった。
「じゃ、オレレポートやらなきゃだから」
「おう、頑張れ学生!」
私の部屋から出ていった。
机の引き出しにしまっておいたチケットを取り出した。
11月19日。
その日発車の新幹線の切符と、ライブチケット。
大きさが全く違うので比べなくてもそれだと分かる。
それを見て、何故私の誕生日に合わせたのかなんて聞かなくてもわかった。
どんなサプライズがあるのだろう。
私はそれしか考えていなかった。
ライブの最後に指輪を渡すとか?
いや、公開告白?
色々と考えられたが、それは当日の楽しみにしていた。
今日は時雨が降っていた。
あれから、2年か。
体が火照る。
思い返すのは恥ずかしい。
あんなにツンツンしていた私がこんなに素直になれたのも、美晴のおかげ。
今回は私がお返しをしなければ。
私の一生をかけて。
チケットをまた、机の引き出しにしまった。
その日までしっかりとここに閉じ込めておかねば。
机の上の日記。
私はそれを手持ち用のバッグに入れた。
そのまま布団に潜り寝ることにした。
その日までに疲れを取らねば。
しかしながら、遠足の前日のようになかなか寝付けなかった。