187、
我慢を我慢する。
なんかもう意味がわからなかった。
会いたいという気持ちを我慢して、その我慢が辛いから我慢自体を我慢する。
自分を器用だと思う。
あれからまた1週間経った。
未だに彼から連絡はない。
どうでもいいと思わないとすぐに涙が出てくるくらい、心は限界だった。
バイトで疲れて帰ると大智がギターを抱えながらテレビを見ていた。
なんだ?
そう思い見てみるとサチレ特集がやっていたのだ。
サチレだけで1時間。
みっちりそれぞれの経歴や1日の過ごし方。
名曲集や、トークなどファンホイホイの内容になっていた。
ちょうど始まったばかりなのでラッキーだ。
番組最後の方でライブをやることになっていて、そこでは3曲抜粋して1番だけをやっていた。
新曲、アレス作曲のガチャガチャしてる曲(東京に行ってから2番目の曲)、そしてサチレの代表曲。
ファンじゃなくても満足な並びだった。
終わると最後のトークになった。
『いま、誰かになにか、伝えたいことありますか?』
それに第一声をあげたのは、美晴だった。
「オレ、地元に残して出てきた人がいるんです」
『ほう』
「最近オレ絶不調で、作曲が上手くいかなかったんです。その時にかなり心配させちゃったんですよ」
『なるほど。それは柘植くんにとってとても大切な人なのかな?』
「オレの中でサチレメンバーに並んで大切な人です」
『なるほど。それでどんなことを伝えたいのですか?』
「もう大丈夫。心配させてごめん。お前のためにもう、諦めない。絶対に幸せにする。もう、こんな思いはさせない」
私は度肝を抜かれた感じだ。
私だけではなさそうだ。
テレビの中でも美晴以外マズそうな顔をしていた。
『あ、ありがとうございます。では宣伝がありましたよね?』
「は、はい! 11月19日に武道館ライブを行うことが決まりました!」
『かなり早い武道館ライブですね』
「かなりマネージャーに回ってもらったみたいで、ホントにマネージャーには感謝してます」
「ありがとうモガミ!!」
「土門! 名前を出さない!」
『仲がいいですね。本当に』
「はい!」
「それではお時間です。来週は……」
もはや電話しないでいられるか!!
バカ!
なんですぐに教えてくれなかったの!!
もう、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて!!
なんでこんなに涙が溢れてくるのよ!!
あぁ、もぅ、
「もしもし? テレビ見た?」
「当たり前よバカ!」
「あはは。ごめん」
「すっごい心配したんだから!」
「ホントにすまん」
「バカバカバカ!」
「ホントにごめん。もう、心配させない。絶対にお前のために、オレ有名になるし、いっぱい稼ぐ。だから諦めない。時雨、お前を幸せにする」
もう、それ以上の言葉なんて聞けるわけがなかった。
今豪語できる。
この瞬間が人生で最も幸せだって。