184、
星空くんから連絡が帰ってきたのは2日後だった。
遊ぶとかそんな生温いことではなく、会議が広げられたようだった。
結論は私には教えてくれなかったが、決着はしたようで心配しないでとのことだった。
それからしばらく美晴から連絡は来なかった。
私も送ろうとしなかったし、結論は多分ここにあるということはわかっていたからあえて送る必要もなかった。
学校も長い休みに入り、就活に追われる生活が始まった。
やっとのことでめぼしい会社を2つほど見つけたが、考えることは同じらしく、競争率が跳ね上がるほど高い。
内定貰える確率なんて微塵に等かった。
そのことをため息混じりに皐月さんに話していた。
カフェも落ち着き、皐月さんが遅めの昼食を食べている。
「確かにその2つなら待遇もええからなぁ。しかも大手。この辺やと、その2つに入れれば安泰だとも言うしなぁ」
お箸を器用に回しながら懐かしそうに言った。
「そうなんですよねぇ。笑えないくらい」
「笑えばええやん。どうせ受からへんと思うなら尚更な」
どういう意味なのかはわからなかった。
「そうなんですか」
「そうやでぇ。おもろいことがあったら腹抱えて笑えばええねん」
そう言うと自分で作ったカツ丼を食べていく。
女性とは思えないくらいガツガツと。
食べ終わって一息つくと直ぐに立ち上がって食器を持ってのれんを潜っていった。
カランカラン。
軽い音が鳴った。
お客さんが入ってきたようだ。
のれんの奥からいらっしゃいませと元気な声が飛んでくる。
そのあと直ぐにのれんから顔が出てきた。
「あ、奈保美さんじゃないですか!」
「やぁ、皐月ちゃん。あけましておめでとう」
「おめでとっす! 2つの意味で」
「あら、夫のことかしら? かっこいいでしょ?」
その女性は私の隣に座り私の顔を覗きこんできた。
「あら、時雨ちゃんかしら? 久しぶりね。あの日ぶりかしら?」
そうだ。
孤児院の人だ。
「そうですね」
「あの日、一緒に飲んだくらいかしら」
「はい。そうですね」
彼女の目の前に紅茶が出てきた。
私の飲んでいる紅茶と同じ香りがする。
それと、金木犀の香りだ。
香水なのだろうか。
とても心地が良い香りがする。
「時雨ちゃんはヨシの彼女だったかしら? カジじゃないわよね?」
「あ、はい。美晴の彼女です」
「結婚するの?」
改めてそう聞かれると答えづらい。
恥ずかしい。
「え、ええ。そのつもりです」
「あら、それはそれはおめでたいわ。結婚式は呼んでよね」
その紅茶を飲んで一息吐いた。
机の上に置かれた左手の薬指には指輪がはめられていた。
「あの、そういえば、奈保美さんの夫ってどちら様ですか?」
彼女は面白そうに笑った。
「私の夫? 晋三よ」