182、
星空くん作詞作曲の曲は高校生を主題にしたようで、甘酸っぱい片想いが描きあげられていた。
率直な男の子の気持ちと言った所だろうか。
私はCDをパソコンから出してケースに戻し、イヤホンを外した。
あぁ、久しぶりにサチレって感じだ。
なんか満足。
これを、美晴にメールしてみた。
美晴にもっと凄い曲を描いて欲しいから。
時計を見るとそろそろ夕食の時間なので携帯を置いて居間に向かった。
ーーーーそのあと直ぐに、美晴からメールが来ることを知らないで。
夕食はお刺身だった。
なにかいいことでもあったのだろうか。
鼻歌を歌いながら料理を作っていたし、多分道端でナンパでもされたのだろう。
美味しいご飯も食べて部屋に戻ることにした。
「ねぇ、ねぇ姉ちゃん! ほら、CD買ったんだ! いいだろ!」
階段を登ろうとすると、後ろから大智の声がしたから足を止めて振り返った。
そこには、どこに隠し持っていたのかサチレの新シングルのCDを見せびらかすように顔の横に上げてにこやかな表情だった。
それを眺めてかわいそうなやつだと思った。
「私もう聞いたよ」
「は! なんでだよ! 頑張って貯めたお金で買ったのに!」
「お小遣いとお給料を一緒にしないでくれる?」
「くそ! このババァめ!」
「はいはい、ババァで結構」
私は顔を戻して部屋に行こうとした。
「ねぇ、美晴大丈夫なの?」
1段目に足を置いて、その言葉に足が止まった。
「なんか、サチレの曲、美晴が作曲してないよね。スランプなの?」
そんなこと私だって知りたい。
本当だったら直ぐ側にいて、一緒に悩んであげたいんだ。
「そうなんじゃない?」
「姉ちゃん、それでも彼女なの! そんな無責任な人だなんて知らなかった!」
「私だってわからないの!! こんなに心配してるのに、側にいてあげられない気持ちがわかるの!? どんな気持ちで私がそのCDを買ったと思ってるの! あんたにはわからないわよ!!」
そう叫んで階段をかけ登る。
部屋のドアを勢い良く閉めて立ち止まる。
運動不足のせいか息が切れた。
息を吸ったり吐いたりして整えようとするが、余計に酷くなっていくばかりだった。
私、こんなにも無理をしていたんだ。
客観的にそう思う。
涙がはらはらと落ちていくのが頬を伝う感覚でわかった。
なんでこんなに苦しいんだろう。
なんでこんなに悲しいんだろう。
なんでこんなに会いたいんだろう。
なんでこんなに愛してるんだろう。
今になってわからなくなった。
好きで好きでしょうがない。
でも、そんなこと思ってたら明日にでも会いに行きたくなる。
だから、私はファンとして過ごしてきた。
でも、会いたくて仕方がなかった。
我慢だ。
美晴の言葉を信じて。
もうすぐで会える時が来る。
前みたいにもう決まっていることに違いない。
そう、私たちが出会った頃と同じように、全て敷かれたレールの上を走っているに違いない。
駅を出た電車が次の駅にちゃんとたどり着くように、このレールも間違いないゴールにたどり着くに決まっている。
脱線もしなければ、急停車もしない安全なレールの上で走っている。
涙を拭いた。
こんなこと考えてもしょうがない。
前向きに。
それが、美晴が教えてくれたことだから。
息も元に戻った。
むしろ、泣いてスッキリしたくらいだ。
気持ちの高揚はあるけど、ぶり返すことはない。
気持ちの整理ができた。
そんな時に携帯がメールを受信したことを知らせるライトが点滅していた。
きっと美晴からだろう。
そう思い、机の上の携帯を開いた。
やっぱり美晴からだった。
急いで内容を確認する。
ーーーー死にたいーーーー
一瞬にして全てが凍てついた。
今までの気持ちも高揚感もなにもかもが息を潜めた。
それを理解するのにかなりの時間がかかった。