180、
「もしもし」
「よ、元気か?」
「風邪気味」
「大丈夫か?」
「熱下がったし、もう大丈夫」
「そっか」
「あ、紅白ちゃんと見たよ」
「まじか。めっちゃミスったんだよな」
「気になんなかったよ」
「いやぁ気にする」
「もう紅白なんだね」
「ああ。ホントはずっと前から決まってたんだけどな。誰にも喋るなって言われてたから」
「私くらいいいじゃんか」
「驚かせたかったし」
「意地悪!」
「ごめんごめん」
「許さないし」
「え! マジで!」
「マジですー」
「マジで許してよ! なんでもするから!」
「えーっと。じゃぁ、大好きって言って」
「……マジで?」
「言わないなら許さないー」
「わかったよわかった。言うよ」
「なになに?」
「……大好きだよ」
「聞こえないー」
「大好きだ! これでいいだろ?」
「うん。ありがとう」
「ったく。なんだよ」
「大好きだよ」
「……あ、ああ」
「なによその反応」
「いや、うん、オレ、幸せだなって」
「なによ今更。私が彼女でよかったでしょ」
「あぁ。そうだな」
「もっと感謝しなさい」
「ありがとうございます」
「ねぇ、武道館いつ?」
「唐突だな」
「もう待てないもん」
「安心しろ。もうその話になってる。近々決まるんじゃないかな」
「ホントに!」
「あぁ。直ぐに決めてやる」
「ホントに直ぐに?」
「あぁ」
「わかった」
「そういえば、就活どうだ?」
「うぅん。こっちで探してもなかなかいい感じのないんだよねぇ」
「じゃぁ東京で探せよ」
「え?」
「こっちならなんでもある。ホントになんでも」
「うん。考えておく。でも、私なんかが東京って」
「オレの彼女だろ? 大丈夫だ。安心しろ」
「わかった」
「お、そろそろ年が明けるな」
「ホントだね。あと2分」
「去年のこの日だよな」
「そうそう。美晴が襲ってきたのね」
「いやいや、違うでしょ」
「まぁ、なんでもいいですけど」
「もう懐かしいな」
「結局の所、あれは本気だったの? それとも嘘だったの?」
「それ言い辛くね?」
「怒らないから言ってみなさい」
「本気だったよ」
「ホントは?」
「ホントはってなんだよ。本気だ。本気で好きになった」
「ふーん」
「なんだよその反応」
「あ、ほらもう少しで」
「話し反らすか、普通」
「ほら、5、4、3、2、1」
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます」
「さ、今年も頑張るか」
「私も、頑張るから美晴もしっかり武道館決めてよね!」
「あぁ。期待してろ」
「じゃぁ、寝るね。ちょっと熱上がってきちゃったみたいだし」
「大丈夫か?」
「うん。平気。ごめんね」
「いや、お大事にな」
「ありがとっ。大好きだよ」
そう言って携帯を置いた。
なんとも、長い電話だ。
朧げな視界のなか、空にいる美晴の形を指でなぞる。
記憶にいる美晴。
それは本当に存在していて、本当に私の彼氏である。
私の幻想なんかじゃなくて、本当に存在している。
目をつむればすぐそこにいるようだ。
このまま、2人で朝をむかえよう。
そのまま、私は眠りについた。