179、
目を開けたら暗かった。
どうやら写メを見ながら寝てしまったようだ。
薬のおかげか熱は下がったようで、まだ体はギシギシするけど、生活する分にはなんの支障もなかった。
少しだけ気分がいい。
って、今何時!!?
急いで携帯を開いて時間を見る。
「はぁ、まだ4時じゃん」
あまりに暗いので紅白が始まったのかと思ってしまった。
一気に気分を害した。
そこらへんにあるスポーツドリンクのまだ半分以上残っているペットボトルを、ラッパ飲みで一気に飲み干した。
普通だったらこんなに飲めないのだけど、どうやら風邪となると飲めるらしかった。
部屋にある立体マスクをして、部屋を出る。
すると置き手紙が壁に貼ってあった。
『どうせむりやりでも紅白見るでしょ? さすがに大智に移されるのは困るから、大智をお婆ちゃんの所に預けに行くわね。遅くても明日には帰って来るから、冷蔵庫にあるうどんでも作って食べなさい』
「普通病人を置いてくか」
呆れた。
でも、それが嬉しかった。
私は居間に行き、早目の晩御飯にすることにした。
蕎麦はないのだけど、うどんはあるので、年越し蕎麦的な行事は行える。
市販のつゆを温めながら、お湯におうどんを入れて戻していく。
具は、大根おろしに、なると、かまぼこに油揚げだ。
丼に湯切りをしたうどんを入れ、そのあとにつゆを掛けて、トッピングしていく。
病人が作るにしてはなかなかの出来栄えのものが出来た。
それをテーブルに持っていき、テレビをつけて、サチレを待つ。
うどんは少し熱かった。
冷ましながら時計を確認する。
後少しで紅白が始まる。
きっと早い時間に出るだろう。
だから、見逃せない。
待ち時間。
私も、彼らもそれは同じだ。
お互い緊張して、楽しみで。
明日、丁度0時。
その時間が私にとっての変わり目だった時間。
正直、そこまで起きていられるかわからなかった。
きっと、美晴もその時間に電話してくるに違いない。
そろそろゴールが近くなってきたのがわかった。
まだ、武道館という言葉は聞けないけど、こんな早さで紅白にまで出ているんだ。
間違いなく、来年中にはやってくれるだろう。
今年も残り6時間。
この時間で365日、8760時間、525600分、31536000秒を思い返す。
それは充実した、一瞬だった。
紅白が始まって1時間と24分経った。
有名アイドルグループが司会者をする、その隣には彼らの姿があった。
相変わらずだ。
この時を待ち望んだかのように、部屋が一気に静まり返った。
それは、私が知っている曲だった。
そう、私が一番最初に聞いた曲。
彼らの代表作。
もはや一瞬だった。
終わって、星空くんがお辞儀をすると私は拍手をしていた。
たった数分の出来事。
日記に書くに足るその一瞬。
その一瞬一瞬を想い出にして、日記に書き留める。
まるで、エッセイだ。
私はメールを送った。
お疲れさま。
来年はなにが待ち受けているのだろう。
このまま、素敵な1年になるのだろうか。
来年には、美晴と永遠に一緒になれるだろうか。
甘酸っぱい思考が、微熱のある頭を巡った。