177、
スーツ姿の私は、家に帰るなりバックを廊下に投げた。
廊下で座り靴下を脱いだ。
履きなれないパンプスで足が痛い。
見ると靴擦れで小指の付け根にキズができていた。
絆創膏、貼らなきゃ。
会社の説明会に行ってきた真冬の雪の日。
12月で大分積もっている。
おかげで血が出ていないのだが、温めていたホッカイロも3つ使い物にならなくなった。
溜め息を吐いて居間に向かった。
居間は暖房がついていて暖かく、さらにホットカーペットを敷いているので寒さを微塵も感じさせない。
凍りついた私の心身を溶かしているようだった。
とろけるように椅子に座ると、CMで聞き覚えのある歌声が聞こえた。
サチレが歌っている炭酸飲料のCMだ。
疲れが一気に飛んだ。
「あら、顔がにやけてる。説明会でいいことでもあったの?」
お母さんがお茶を入れてくれたみたいで、机に湯呑が2つ置かれた。
お母さんは机を挟んで反対に座ってお茶を啜った。
「いや、全然ダメかな」
私はまた溜め息を吐いた。
「なんか、どこも定員が少なすぎて、どうも上手くいかなそう」
「そんなの、不景気なんだからどこも一緒よ。いい加減に覚悟決めなさい」
そうなんだけど。
お茶を濁しながらお茶を飲んだ。
お母さんに絆創膏を貰い、部屋で貼る。
部屋は寒かった。
暖房を入れたが当分は暖まることがなさそうだった。
布団に篭もり携帯を確認する。
美晴からメールが入っていた。
最近上手くいっていないようだ。
マネージャーには次の曲を作れと言われ、創っても却下され、そろそろノイローゼになりそうだとまで書いてあった。
まぁ、予想通りだと言えばそうなのだが。
相変わらず、代わり映えしない曲調と歌詞にみんな飽きてきている頃だろう。
一発屋。
最も貰いたくない称号だろう。
しかしながら、私になんの知識も、ポエムの作り方もわからない。
頑張って。
ただそれしか言えなかった。
助言もした。
たまにはみんながノれる曲調もいいんじゃないか。
好きって言うだけじゃないよ、とか色々だ。
彼はそれを鵜呑みするかの如く、たったふた文字、うん、しか返って来なくなった。
罪悪感。
でも、有名になるまで、私は心を鬼にして応援すると決めた。
だから、私は少し辛いことを言う。
許して欲しい。
愛の裏返しなの。
返事が来なくなったのは意外と早かった。
10時を回ってから私は論文を書き始めていた。
私には私の、彼には彼の、過ごす時間がある。
今なにしているだろうか。
誰といるだろうか。
そんな心配と不安に駆られながら、それでも彼を信じる私。
今がお互いにとって辛いということはわかっている。
私が弱音を吐こうと、彼が弱音を吐こうと、仕方がないこと。
仕方がない。
ーーーー仕方がないで済むのだろうか?