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そのあと3日はどうやら観光をしているようで、私が頼んだ東京タワーとかレインボーブリッジとかが写メで送られてきた。
みんな楽しんでいるようで、はしゃぎっぷりがメールの内容からもわかる。
そんな会話をおやつ時のカフェでしていた。
私は紅茶とパンケーキを嗜みながら、今日は暇らしく隣に座っている皐月さんと話している。
皐月さんはお昼なのか自分で作った焼きそばを食べていた。
「土門ったら店の心配しかしないんよー。そういうメール欲しいわぁ」
土門さんらしい。
1番頑固な人だ。
「もう大丈夫やっちゅうねん。お客さんも優しいしなぁ」
4つのパンケーキが重なったものにはちみつを惜しみなくかけられ、一番上にブロックのバターが乗っている。
その1枚をやっと食べ終わり紅茶を飲んだ。
「きっと皐月さんのことが心配なんですよ。お店のことで落ち込んでないかなとか」
そう言うと皐月さんの顔はみるみる赤くなっていった。
「ば、バカ! そんなことあらへん! たんにまた売れなくなるんやないか心配しとるんよ」
1度強く肩を叩かれた。
紅茶のカップを置いておいて良かったと思った。
「もう、時雨ちゃん! やめてーや!」
「ごめんなさい」
面白くて面白くて仕方がなかった。
「もぅ! 笑うなぁ!」
パンケーキを食べと終わると時間が大分過ぎていた。
そろそろ帰ろうか。
私は立ち上がり皐月さんに挨拶してお店を出た。
カランカラン。
相変わらず軽い音だった。
少し暗くなり始めていた。
カラスも鳴くのをやめ始めるくらいだ。
私はネオン街を突き進む。
ーーーーどこかで、見たことがある。
そう思わせた人とすれ違い直ぐに後ろを向くと、既にそこにはいなかった。
気のせい?
かな。
そうだ。
きっとそうだ。
私はまた前を向き、歩き出す。
どこか、金木犀の香りが高らかに香っていた。
そんな季節だったな。
時雨、金木犀、そして風花。
私の認識している、この季節。
まだ知らなかった。
金木犀の意味することを。
知らないまま、秋は過ぎていった。