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しぐれぐむ  作者: kazuha
しぐれぐむ
174/200

174、




 美晴がいなくなって数時間が経った。

 彼がいないことは日常茶飯事なので、あまり実感がさほど無い。



 皐月さんと早いお昼を食べ終わると、カフェに戻るらしく直ぐに行ってしまった。



 私は家に帰って直ぐに部屋にこもった。


 今日1日始まったばっかりだけど、日記を書くことにした。



 とうとう行ってしまった。



 そう書き始めて今の気持ちをここに書いていく。



 すると、少しだけ気持ちの整理ができたみたいで、ずっと違和感があった胸の奥のわだかまりが解けたようだった。



 そうだ、始めから読み返してみよう。


 始めは内容なんて無かった。


 買ってみた。


 美晴と遊んだ。



 はぁ、くだらない。


 クスクス笑って読み進めるうちに、段々と懐かしさが襲ってきた。




 必死だった。


 生きることもそうだし、人生謳歌することもだが、しかし上手くいっていない自分。



 端から見たら面白いのかもしれないけど、私からしたら辛いことだった。



 良く言えばいい思い出。


 悪く言えば黒歴史。



 最後の方まで来て暗くなっていることに気付いた。



 携帯をつけるともう6時を過ぎていた。



 流石に美晴は東京駅に着いているはずだ。



 メールも入ってないのはおかしいと思ってメールセンターに受信した。




 すると、3件のメールが入ってきた。



 1つは美晴からだ。


 東京駅に着いた!

 広い、迷った。



 それだけが書かれていて添付された写メは東京駅の外観とサチレメンバー全員だった。


 みんなはしゃいでいる。


 美晴と土門さんは肩を担ぎあってピースをし、テラコさんはジャンプして、星空くんは両手ピース、晋三さんはそれらを見て少し引いていた。



 面白い。

 声をあげて笑う。


 全くみんなは変わらないなぁ。



 保存。





 2件目は星空くんからだった。


 東京に着いたよ!

 人がいっぱいでちょっと酔っちゃった。

 別に新幹線で酔った訳じゃないよ!!

 これからホテルに行くんだ。ちょっと楽しみ。

 明日からみんなバラバラの家だけどね。

 毎日メールするからね!

 だから忘れないでね。



 これも添付ファイルがあった。


 開くと、美晴の新幹線での寝顔が入っていた。


 口を大きく開けてまるでバカだ。





 保存。




 3件目は美晴だった。



 ごはんなう。



 それはホテルの晩御飯らしいのだが、添付ファイルに乗ってるものはいわゆるフルコースで、私としたら手の届かないものだ。



 海老とか美味しそうなんですけど。



 これを見ていたらお腹が空いてきた。



 そろそろご飯時だ。


 メールは後で返すとしてとりあえずご飯を食べることにした。



 夕食はサンマの塩焼きだった。


 秋のサンマは脂がのってて美味いと言うが、どうも焼き魚と言うものが好きにはなれなかった。



 文句は言えず、ちゃんと食べて部屋に戻った。



 すると、メールなら2バイブルで止まるのに、3バイブル目が入った。



 電話だ。



 急いで携帯を取り、開くと美晴の文字が見えた。



 通話ボタンを押して耳に当てた。



「もしもし!」

「元気だな」



 とてつもなく久しぶりに聞いた。


 たった数時間なのにそれでも永遠の刻を過ごしていた。



「泣いてないよな」

「当たり前よ!」



 クスクス笑っていた。

 相変わらず酷い男。



 電話越しに風の音と車の音が絶えず聞こえていた。

 賑やかだ。




「なぁ、空見えるか?」

「え?」



 部屋のカーテンを開けるとすぐそこに無限の闇が存在していた。



「見えるよ」

「星は見えるか?」



「え? 当たり前じゃん」


 


 私は星の数を数え始めた。


 幾千、幾万、それは限りなく数えられないほどであった。




「そっか。こっちはひとつも見えないよ」

「え?」



 東京は星が見えない。

 噂とかのレベルでよく聞くことだった。


 知っていたのにこんなにも違うのかと思わせる。


 同じ空のはずだ。


 同じ闇のはずだ。


 私の見える空は、美晴は見えていない。



 同じ世界にいるのだろうか。




「まったく、もうホームシックだよ。星見てーな」

「はやいね。まだ行ったばっかじゃない」



 私は笑った。



「次会うときは有名になってからでしょ? 帰ってくるにははやいんじゃない?」

「…………そうだな」

「ほら、頑張ってよ! 早く会いたいんだから」

「おう。直ぐに有名になってやるよ」




 そうやって、出発の初日は終わる。



 もう我慢を決めた。

 全力で応援もする。

 そのためなら、心を鬼にでもする。


 そう決めた。




ーーーー私が彼を苦しめることになるとは知らないで……。







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