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しぐれぐむ  作者: kazuha
その見える眼前の景色
173/200

173、




 今日は馬鹿みたいに作り上げられたような晴天の1日だった。


 小鳥の(さえず)りもおはようを歌い、テレビでは今日は雨さえも降らない、日向が暖かい1日だろうと歌っていた。


 絶好の、出発日和だろう。


 さすが大安と言った所だ。




 今食卓を囲んでいるのは私、美晴、母、弟だった。


 お父さんは相変わらず寝ている。


 朝食は何故か豪華だった。


 いや、私の作っていたご飯が質素だったのかもしれない。



 この場ではお母さんと大智が、頑張ってとかご飯食べるんだよとか戸締りには用心してねとか、まさに親子のような言葉が出ていた。


 私は黙々とご飯を食べていたら、お母さんがなにか言う事無いのと言ったので私はこう返した。


「一緒にいる時間が違うからね」


 その一言に美晴は笑った。



「今までお世話になりました」


 私の家族に礼を告げて新幹線が乗れる場所まで行くことになる。


 私も最後までお見送りするつもりなのでついて行くことにしていた。



 外は確かに暖かな陽気だった。


 ただ、風がやけに強く肌寒い。


 最近の天気予報もあまり当てにならないな。



 電車に乗っても、私たちは無言だった。


 今日起きてからおはようとしかやり合っていない。



 それ以外、なんの言葉も交わしていない。



 今日契約会社に向かうのか美晴はスーツだった。


 しかし、首筋に私のキスマークがあり、なんだか変な感じではあった。


 美晴はさほど気にしていないようだが、傍から見ると変な感じだ。



 いつもの方角とは反対の電車に乗り、片道68分の道のりを行く。




 降りた先にはみんながいた。


 星空くん。


 テラコさん。


 土門さん。


 晋三さん。


 そして皐月さん。


 どうやら1番最後だったようだ。


「遅くなった」

「僕らも今来たばっかだよ」

「ならよかった」



 そのまま進んでいく。


 新幹線のホームへ。




 入場券を買って、一緒に新幹線を待った。



 やけに寒い。


 雪でも降りそうなくらい。



 ほぼ無言のまま、みんなの会話を聞いていた。


「あんまり、引っつくな!」

「ええやんこうゆー時くらい」

「そうだよ土門。できれば僕も時雨ちゃんに抱きしめられたいけど」

「男なら自分から行くもんだろ」

「いやぁ、仲間の彼女を奪うほど僕はゲスじゃないよー」

「えぇーいいじゃないその修羅場。出発日には最高のイベントよ」

「いやいや、ここで女の子発動しなくていいから!」

「私女の子よ!」

「いや、おばさんだな」

「晋三! うるさい!」



 賑やかだ。

 なんとも、いつも通りだ。



 もうまもなく新幹線が来る。


 そう掲示板が示した。





 入ってきた新幹線。


 私は急に寂しくなって美晴の手を握った。


 停車時間は6分。


 開くと同時に乗っていた人が降りてきた。


 全ての人が降りると星空くんから入っていく。


 皐月さんは軽く手を振る。



 やっぱり、あの人は強い人だな。



 次の瞬間、繋いでいた手が離れた。


 美晴は静かに振り返りにっこりと笑った。



「じゃ、いってくる」


「……うん」


「元気でな」



 美晴が新幹線に乗ろうとした瞬間だった。



「……っ!」

「ゆ……き……?」



 空には雲ひとつない。

 変な話だ。


 美しく輝く白銀の雪が降り注いでいく。



風花(かざはな)!?」



 美晴が小さく叫んだ。


 どこかで聞いた事ある。


 いや、知ってる。


 私は覚えようとしなかった。


 そんな意味なことを否定したかった。



「風花か。……知ってるか? 風で山とかに積もった雪がこうやって降る現象だ。オレたちはこれを、お別れの印だって言ってる。必ず、こういう日に降るんだよ」



 知っている。


 これがどんなものなのか。


「はは。因縁だな。なぁ、時雨」



 別れ、それはどんな別れなのだろう。

 一時の別れ?

 永遠の別れ?


 泣く気なんてなかった。

 昨日の夜に全て出した。

 なのに、この輝く風景の中で、彼はこっちを向かず、新幹線に入ろうとしていた。



「あと、知ってるか? 時雨って言葉。意味が2つあるんだ。1つは、秋に降るポツポツと降る雨。もう1つは、涙ぐむことだ」



 なにが言いたいのだ。

 バカにしているのか。

 涙もろいと。



「始めて会った時は変な女だと思ってた。強がりで、それでいて弱虫で。絶対にもう会わないと思ってたよ。そしたらCD屋で会ったな。ホントにくだらないよなこの出会い方。でもダンドリオンが好きだと知った時は内心嬉しかったよ。

 時雨の為に契約を切った時は正直しんどかった。今でだから言えるけどな。でも、時雨がいてくれたからこうやって頑張れたし、東京に行ける。

 付き合って色々とあったな。本気で怒られたとき、マジで凹んだ。カジと時雨がつるむようになってお昼に食堂に来なくなったときは寂しかった。

 ホント色々あったなぁ。思い出せば色々と出てくる。はしゃいでる時雨も、水着姿の時雨も、恥ずかしがる時雨も、なにもかも……。

 でも、やっぱ1番好きな時雨は笑顔だから。だからさ、こういう時でも笑ってて欲しい。オレが大好きな時雨だから。オレの背中を笑って見送ってくれよな。涙なんて欲しくない。泣いて『さようなら』より、笑って『またね』がいい。そう思わないか?」






 こんな状況で笑えと言うのか?

 こんな状況で泣くなと言うのか?



 無理に決まってるじゃないか!



 またねも、お別れの言葉なんだから!



「行ってくる。次、会う時は、オレたちがめっちゃ有名になってからだな。そうだなぁ、武道館でライブやるくらいかな」


 バカ、バカ。



 明日にでも会いたい。

 12時間後に会いたい。

 5分後に会いたい。



 そんなこともわからないのか。



 ずっと一緒がいい。


 私も行きたい。


 このまま、私も。



「じゃ、またな」



 涙ぐむ私。


 時雨の日から始まって、風花で別れる。




 そんな私たちの出会いは、また次の時雨時に会えるというものだった。



 そう、来年には会える。


 絶対に。




 空は輝いていた。


 雪が太陽の光を反射して、幻想的な世界を作っている。




 目に焼き付ける。



 その後ろ姿を。



 彼は、彼が言ったように、彼自身笑って行ったのだろうか。















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