17、
案の定、料理はなかなか出てこず、私は黒ずくめのマスクやろうと対面しながらこれからの打ち合わせを受けていた。
ようはチケットを貰えばいいらしい。
持ってなかったら入れるな。
途中退室の場合はチケットを返せ。
だそうな。難しくはないが、なにせ始めてなので少し緊張している。
「まぁ、他にシンゾウがいるから、わからないことがあるならそいつに聞いてくれ」
シンゾウ?
だれ?
と、聞こうと思ったけど既にそんな雰囲気じゃなくなってきた。
「? ばれた?」
どういうこと?
辺りを見回すとすぐに料理が出てきた。
私はゆっくりパフェを食べながら、確かに明らかにこの席に視線が集まっているのが気になり始めた。
「急いで食え。さっさと逃げっから」
それは食い逃げですか?
っとジョークは置いといて、身の危険さえ感じてきたから黙って従った。
美味しい。
美味しいけど、頭がいたい。
かき氷か。
あぁ、
なんでこんなことしてるの。
「ごちそうさま……」
お互いほぼ同時に食べ終わり直ぐに席をたった。
すると辺りがざわめき出す。
美晴がバックから黒い長財布を出して、レジにレシートを出した。
そして、同時に2千円だす。
「ごめん。お釣りはチップにしといて」
そういうと、美晴は私の手を取って、
え!
ちょちょちょ!
ダッシュ。
その瞬間に後ろから黄色い声援が響いた。
まって、
まって、と。
私は手を引かれるがまま走る。
美晴って、こんなに足早いんだ。
切る風にマフラーが今にも飛ばされそうだったが、すぐ近くの地下室に入り手は離された。
「あぁ、はぁ、わりぃ。まさかバレるとは思わなかったからさ」
なんだろう?
「そんな……有名……なの?」
彼は息を整えてからこう言った。
「アレスって言えばわかるか?」
ーーーーアレス。
知らないわけがない。
ダンドリオンの生みの親と言われている作曲家。
自身も1度真っ赤な髪でダンドリオンと共にギターを奏でたことがある。
「嘘でしょ?」
私はその人の顔を知らない。
だからなのか。
信じてしまった。
「……時雨がなんと言おうと、オレはアレスだ」
「髪……」
「ウィッグだよ」
「そうか……」
そんなこんなしていたら遠くから声が飛んできた。
「よー!! 柘植! 元気かー!」
私はその人を見るなりテンションが上がる。
「まさかのカジくん!?」
「あぁ、カジだ」
「やっほー。これはこれはお始めてですね。ダンドリオンのカジです。受付の方でいいのかな?」
「あぁ、受付だ」
美晴のこのレパートリーのない返しは如何せん鼻につく。
「ってか、新曲は?」
「まだできてないが」
「ちぇ、なんだ。珍しく仕事遅いねぇ」
「すまんな」
なんか変だ。
作曲依頼したのはわかった。なんとなく。
確か、めんどくさいとか言いながら戻ってきたのは一昨日くらいではなかっただろうか?
「じゃ、今からリハだから柘植は音響よろしく」
「いつもどおりか?」
「いや、今日はちょっと空高いから調整してくんないかな?」
暗闇の先に進んでいく2人を追いかけて中に入っていく。
そして私も含めてそのリハーサルに参加(見るだけなのだが)することになった。