169、
宴もすぐに終わった。
皆終電があるので、帰宅が基本だった。
土門さんとテラコさんはどうやら潰れたらしく、カラオケで寝かせると星空くんが引っ張っていった。
晋三さんは奈保美さんと帰っていった。
あの2人の関係はなんなのだろう。
「ねぇ、晋三さんと奈保美さんの関係ってなんなの?」
終電のため、満員に近い電車の中で一緒の家に向かっている美晴に聞いた。
「あぁー。わかんねぇ」
「そっか」
美晴でもわからないことあるんだなぁ。
なんやかんやお酒を飲んでしまった。
ファジーネーブル、カシスオレンジ、スクリュードライバー。
その程度だが、どれも美味しかった。
家に着いて、美晴が電気を点けた。
明かりが点くとなにも変わらない2人だけの空間があった。
私は酔い冷ましに水道水を美晴と私分コップに入れた。
「はい」
「サンキュー」
ベットに座り水を飲み干した。
私の隣に美晴が座ると、その肩に頭を乗せた。
ゴツゴツしている肩。
頭を乗せるには適さないだろう。
それでも、私にしては心地がいいのだ。
その仄かに感じる体温、息使い、若干の動作。
全て私のもの。
そうでなければ嫌だ。
「……大好き」
つい口から溢れた。
無動な美晴に嫉妬して、私はコップを置いて抱きついた。
「大好き」
肩に手を回してきた。
幸せ。
それがすぐに離れるなんて認めたくなかった。
嫌だ。
東京になんて行って欲しくない。
ずっと私と一緒にいて欲しい。
少し狭いけどここでずっと一緒がいい。
子供はまず女の子がいいな。
名前はどうしようか?
そんなやりとりもまだしてない。
「行かないで」
ぎゅっと抱きしめる。
「離れるのやだよぉー」
涙腺が開いた。
目に涙が溜まっていく。
「やだよ。いやだよ」
肩に回っていた手が頭を撫でる。
優しく優しく、愛撫される。
我慢なんてもう無理だった。
私から、美晴にちゅーをした。
気がついたら朝だった。
時計を見ると7時だった。
休みだからいいけど、これで学校だったらなんとも惨めな遅刻だろう。
そんなことを思って起き上がった。
違和感。
それはすぐにわかった。
美晴がいないのだ。
しかし、それもすぐに解決するのだった。
ふと窓際を見ると、コーヒーを飲みながらパソコンに向かっている美晴がいた。
「おはよ。はやいね」
美晴は驚いたように体をぴくつかせ私を見た。
「……おはよう」
またすぐにパソコンに目を移すと、ブラインドタッチでキーを打っていく。
私はさほど気にせず朝食を作ることにした。
今日は目玉焼きとパンだった。