167、
あちらこちらから啜り泣くような音がする。
かなり長い沈黙が悠々と過ぎていく。
舞台上の5人は目をつむりそのまま動こうとしなかった。
どの位の時間が流れたのだろうか。
わからない。
ただ、気がついたらピアノがクラシカルな音楽を始めていた。
「あれ? みんな泣いてる? かわいいね。さぁ、もうしんみりした感じは終わり!! 一気に盛り上がっていくよ!!」
沈んだ空気を換気したのはドラムの打音だった。
サチレの1番とも言われる曲で、私が好きになったのはこの曲からだった気がする。
涙なんて拭いている暇もなかった。
星空くんが細かく跳びながら手拍子を催促してきたからだ。
みんな飛び上がりながら手拍子を始める。
それは私も一緒だった。
このまま、楽しい時間が過ぎていった。
アンコールも含めて14曲。
最後の方になると熱くなるのか、土門さんは上半身の服を脱ぐし、美晴は無駄にまえに出てくる。
テラコさんなんて結構大きいキーボードを担いで弾くという荒業を見せた。
晋三さんはいつも通りな感じではあったし、星空くんはいつも通りにはしゃいでいた。
私がよく知ってる皆の晴れ姿だった。
終わって会場が明るくなると皆帰るように会場から出ていく。
外では女性の黄色い声が聞こえる。
どうやら出入り口に皆がいて、握手会的なものをやってるみたいだった。
私は振り返ってみた。
今更ながら、驚愕した。
満席くらいいただろう人がわんさかと帰宅しようとしていた。
私もそろそろ立とうかと思っていたが、その光景を見て諦めた。
「あぁあ。終わってもうたなぁ」
皐月さんが溜め息混じりにそう言った。
私は舞台の方に顔を戻した。
「終わっちゃいましたね」
このやりきれない感情はなんなのだろうか。
当分会えなくなる。
そんな気持ちが私を染め、未だに残り香のある舞台上を焼き付けるように見つめた。
「ケーキ、買っていきましょうか。おめでとうって」
「お、ええね! そうと決まれば買いに行くか?」
私たちは立ち上がった。
まだ人は減りもしていなかった。
その中を突破して、サチレメンバーのいない出口から会場を出た。
打ち上げの時間までまだ大分ある。
みんなが来る前にケーキを打ち上げの場所に持っていかなければ。