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1曲、また1曲と続いていく。
合間合間に雑談会をしたり、客席含めたゲームをしたりと、音楽だけで魅せている訳ではない。
こんなバンドはありなのだろうかと思うが、きっとありなのだろう。
売れてるバンドの人は、私の勝手なイメージ、雰囲気渋く、あまり喋らず、歌ってばっかりいるというイメージがある。
今時それでは売れないということなのだろう。
5曲目が終わったくらいだろうか。
みんなでたのしくお絵かき当てゲームをしたあとに、次の曲に移る。
「さて、今日は色々な意味で大切な日だ」
そう始めた星空くん。
「そんな大切な日に歌うために僕がこっそり創った曲を次やろうと思う。盛り上がったばっかりだけど、バラードといかせてもらうね」
既にギターがファの音を伸ばしていた。
それが何を意味するのかわからなかった。
ゲームで盛り上がってた会場が一気に静まり返った。
星空くんの息を吸う音が聞こえるほどに。
「雪が降る秋の更け
風花と教えてくれた君
寂しく降る粉雪
輝き続ける記憶
まだ名前もない僕に名前をつけてくれて
まだ名前もない空を見上げ
まだ名前もない明日に向かって
まだ歩き続けている
君がなくなってもう何年経つだろう
今眼前に見える風景は輝いていて
綺麗だねと言い合って君は言う
この風景が別れの印なんだよって」
すぐに誰のことを歌っているのか分かった。
だけど、私は一度もその人を見たこと無い。
できれば会いたい人だった。
「星が見える夜の更け
星空と教えてくれた君
幾千の綺羅星
明かり付ける月
まだ光る星はよく見えなかったけど
まだ君が側にいてくれて
まだ見れると将来に誓い
僕の名前の意味を知る瞬間となる
君がいなくなってもう何年経つだろう
今眼前に見える風景は輝いていて
『好きだよ』と言う僕の言葉も
もう伝わらないと別れが示した」
間奏に入った。
美晴のギターが柄になく憂いを奏でている。
星空くんは半泣き状態だった。
私はそれでもその言葉一字一句逃さないために涙を我慢した。
「君の姿探して
隠れた影を探して
やっと見つけたものも触れて泡となり
君の姿眺めた
隠れた僕の背に
赤い太陽は水平線に消えていく」
一瞬音が消えた。
そして、転調してサビに戻ってきた。
「君がいなくなってもう何年経つだろう
今眼前に見える満月は輝いていて
『優しさ』という言葉に歯をくいしばり
墓の前で降る風花
君がいなくなってもう何年経つだろう
今眼前に見える風景は輝いていて
綺麗だねと言い合って僕は言う
この風景が別れの印なんだよって」
思わず涙を零した。
感想なんか考えられないくらい、心に響いたのだ。
あぁ、なにも知らなかった。
本当に、最後まで教えてくれないのだろう。
美月さんのことを……。