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しぐれぐむ  作者: kazuha
その見える眼前の景色
160/200

160、




 秋。



 最近は台風とかちょっとだけ大きい地震とかで連日ニュースが騒がしく気を付けてと言っていた。



 気を付けるもなにも、風で家が飛びそうとかちょっとした地震で潰れそうな家はどうしたらいいですか?



 今日はバイトも休みで家に居た。


 美晴はと言うと、朝から資金集めにあちこち歩き回っているみたいだ。


 いわゆる、スポンサー探しだ。


 案外上手くいっているようでライブはなにも心配なく行えそうであった。




 私の貯金はライブには出さないという約束を一番最初に取り付けられて以来、しっかりとそれを守っている。


 少しは出資してもいいかなと思って頑張ってバイトに入っていたため、貯金が結構ある。


 これでなにかできるのだが、何をしよう……。


 2人っきりで温泉にでも行こうか。



 そんな感じであった。




 昼ドラを見ながらそんなことを考えている時に携帯はバイブルした。


 どうやらメールらしい。


 昼ドラが今いいところなので後で見ることにした。



 そんなこと言っても4分くらいで終わってしまった。



 私は直ぐにメールを確認すると星空くんからだった。



 前はお盆に一緒に墓参りに行って以来急に連絡が取れなくなっていた。


 私だけじゃなくて美晴も。



 なので、待ちに待った返信なのである。



 私が送った内容は、美晴から頼まれていた、東京行きのチケット5人分を買っておいて欲しい、だった。


 何故それを私に頼んだのかわからないが、聞く私の身にもなって欲しいものだった。



 返信内容はこうだった。


『6人分じゃなくていいの?』


 私の胸が急に痛む。


 我慢してた。


 絶対に言わないようにしてた。


 私だってそれは行けるなら行きたい。


 大学はやめて、東京で仕事を探して、2人で広くはない家で生活するのもありだとそれは思っていた。



 だけど美晴はそれを許可しない。


 なんでだかわからない。


 それでケンカにもなったし、私だってわがままになった。




 今はもう、無理強いしない。


 そう決めているのだ。




『いいよ、私なら平気』





 そう返すと、以降メールは返って来なくなった。



 また、テレビを見ると次の昼ドラが始まっていた。


 相変わらずドロドロしている。


 嫌悪感はあるが、案外それさえも香辛料となり面白くさせている。



 きっとこの家にいられるのも、後何ヶ月もない。


 美晴が東京行ったら実家に帰ると伝えてあるし、荷物もたまに来る大智にちょくちょく持って行かせている。


 もう、色々と支度は出来つつある。


 後は気持ちの整理だけだった。





 私は最近行ってなかった、あの場所に向かうことにした。





 確りと戸締りをして、自転車で向かう。


 実家からだと大分遠いのだが、ここからだと10分くらいで行ける。



 着くなり自転車を適当に止めてお店の扉を開ける。



 ちりんちりん。



 いつものような軽い音。



 それと同時に元気な声が飛んできた。



「いらっしゃいませー」



 元気よいその女性の声は、間違いなく皐月さんであった。


 皐月さんは、既に卒業単位を取り終わっていて、尚且つ卒業論文も書き終わったらしい。


 なので学校に行く必要もなければ、ここで働くことを決めている皐月にとって就職活動も無意味なことであった。



「お! 時雨ちゃん! 久しぶりやな!」



 ケラケラと笑う皐月さん。


 少しだけ忙しそうに、トレンチと呼ばれたおぼんを持ってコーヒーを運んでいた。


 周りを見ると、テーブル席が埋まっていて、カウンターにもちらほら座っていた。



 ただ、私のいつもの場所は空いていたのでホッとした。




「ごめんな、ちょっと忙しいさかい、適当に座っててな」



 そのつもりですという前にササッと飲み物を運びに向かった。



 何が起きたのだろう。


 私の知っているここは、いつ来てもお客さんなんて居なかったのに。




 それは料理を出しに来て私の存在に気付いた土門さんが答えてくれるようだった。



 カウンターの人にトーストを出して私の方に来た。


 その顔は嬉しそうな顔だった。


「なぁ、見てくれよ。昔に戻ったみたいだ」


 にっかりと笑うその顔はドラムを叩いている時の顔だった。


「なにが起きたんですか?」


「皐月がお客さん来ないことに苛立って、外で呼び込んでたんだよ。最初は1人とかだったけど、その人が他の人を連れて、またその人が別の人を連れてってなったらこうなったんだよ」



 なるほど。


 やっぱり、錆びれたのは腕とか名誉とか経済とかではなく、この店の存在だけだったのだ。


 それを知らしめる方法なんていくらでもあった。


 ただ、それをしなかったのだ。




「何飲む?」




 土門さんの渋い声で私は我にかえった。


 最近考え塞ぐと言うのか、考えると止まらない。



「あ、じゃぁ、いつもので」


「おうよ」



 私がそう言うと何人かが私に視線を送ってきた。


 私なにかしただろうか?



 直ぐに出てきたのは、オレンジジュースだった。

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