16、
もはや、講義なんて耳にしていられるほど余裕はなかった。
なんたってダンドリオン。
今を轟くあのバンド!
歩けど歩けど、進む道をすれ違う人に聞いても、その名前を知らない人はいない。
あぁ、なんかよくわからないけど会えるのかぁ。
と、そんなこんなやっていたら90分の講義は終わっていた。
ってか、ノートとってないんですけど。
ま、いっか。
私は踊る鼓動に身を任せホールに向かった。
そこにはゴツイ黒いヘッドホンをしている美晴がいた。
私は近づいて肩を叩くとぬるっとこっちを向いた。
私を確認するとヘッドホンを外す。
爆音が外されたヘッドホンから聞こえるが、彼はすぐに音を消した。
「おつかれ」
「うん、ありがとう」
早く行こう、などと言えるはずもなく、ただ彼がゆっくりとノートパソコンをシャットダウンしているところを眺めているだけである。
「なんか飲むか?」
「いや、まだお茶残ってるし」
彼はパソコンを閉じ、バックに仕舞うと、それを持った。
「よっしゃ、行くか」
「うん」
学校を出た。
いつものように電車に乗り、今日はどうやら隣の県のライブハウスに向かうそうだ。
携帯で調べると、確かにダンドリオンのライブがある。
「ってか、いい加減に教えなさいよ。見に行くだけなの?」
乗り換えて後は長時間我慢すればいい時に聞いてみた。
いい加減にスッキリさせておきたかったのだ。
「あぁ、そうだな」
彼はジーパンのポケットからチケットを出した。
「これを、受け取る仕事」
……?
受付的な?
「あいつら有名なくせして金ないから手伝いをして欲しいそうだ。いいだろ?」
まぁ、いいのですが……。
別に隠す必要なかったのではありませんか?
「大丈夫よ。むしろダンドリオンのためならそのくらいするわよ」
「あいつらのためならか……」
「……ん?」
「…………なんでもない」
なんだったんだ。
よく聞こえなかったけど。
少しだけ気まずい雰囲気が流れた。
会話がないまま20分過ごし、等々降りることになった。
このまま直で向かうとだいぶ暇になるそうなので、ファミレスで早めのおやつでも食べることにした。
ファミレス店内はやけに混雑していた。
中に入ったが、ご案内してくれるはずの店員さんが全く来ないのだ。
「あの、2人なんですけど」
痺れを切らしたのか美晴は通りすがりの店員さんにそう言うと、
「大変申し訳ございませんでした。只今ご案内させていただきます」
だそうで、すぐに空いている場所に通された。
席に座り、私はパフェを、美晴はハンバーグを頼んだ。
……って、
「なんでハンバーグ? さっき食べたばっかじゃん」
「いいだろ。食べたいんだから」
「まぁいいけど、食べきれなくてもしらないよ」
「食べれるわ」
いやぁ、その細身のどこに入るのですか。
まぁいいやと視線をドリンクバーに向けた。
「なに飲む?」
「こーら」
あ、はぁそうですか。
ドリンクバーに向かい、私はカルピスを取り戻った。
戻り際、ダンドリオンと言う言葉をよく耳にした。
あぁ、この人達、いわゆる出待ち的な人達だ。
すごいなぁ、なんでこんなに人気があるんだろう。
各いう私もその1人になり果てた訳ですが。
席に着きコップを置くと、取りあえず聞いてみることにした。
「ここにいる人達ってさ……」
「ファンだな」
知ってたんですね。
美晴はマフラーを取るが、変わりにマスクを出して取り付けた。
「花粉症?」
「いや、なんとなくな」
あやしい……。
「にしても、そのパソコンなに? なんかしてたけど」
ノートパソコンがずっと気になっていた。
と思う。
もうなんかファンに圧倒されていて、あまりの動揺に会話していたいだけなのだが。
「あ? あぁ作ってた」
「レポ?」
「いや、だから」
「なによ!?」
彼は机に乗り出し耳付近で呟く。
「曲だよ」
あ、そういえば作曲できたんだね。
と言おうとしたら口を塞がれた。
「このことはもう言うなよ」
「あ、はい」
彼の手に声が篭った。