157、
落ち着いたのは結構後だった。
いらない想像までしてしまう自分がいい加減嫌だった。
食材を美晴の家まで運んで1回実家に帰ると伝え、1人で電車で帰り今自分の部屋で日記を書いていた。
この2日、思い出すだけで濃いものだ。
ダンドリオン主催のライブにバイトとして行った。
そのライブに欠員ができたため私がサチレを呼んだ。
飲みの帰りにカジくんと美晴がケンカ。
半ば無理矢理私を奪う。
私が帰りたくないといい美晴の家に泊まる。
そして料理を作ってあげて、買い物へ。
そして、あれ……。
思い出したくもないけど、忘れてはいけない気がする。
だから、こうして毎日を書いてきていた。
今思い返せば内容は美晴のことばかりだった。
きっとこれからもそうなるだろう。
日記を閉じた。
そして、お母さんがいる居間に向かった。
お母さんはテレビを見ていた。
ニュース番組。
私はその隣りに座った。
しばらくテレビの音しか流れなかった。
そんな沈黙を破ったのはお母さんだった。
「どこいってたの?」
静かに置かれた。
言霊がぽつんと宙に浮かび、私の肩に置かれたのだ。
それは怒りとも呆れともとれなかった。
幼少のころから培ったそういった事の対処方法の検索が全く引っかからなかった。
「美晴の家に泊まってた」
「……そう」
言葉のキャッチボールとは良く言うが、そのボールが風船だったらとは考えたことがなかった。
ふわふわとしていて尚且つ中身がない、そんな会話だ。
そんなことに異常に拒否反応が起きた。
何かが不安で恐怖で、落ち着かなかった。
だけど、この空間ではそんなどす黒い感覚は存在してはならず、日曜の陽気な日光と空気がほのぼのした空気を強要していた。
「あのさ」
「好きにしなさい」
私はなにを言おうとしたのだろう。
沈黙に勝てなくて口が動いた。
なのにお母さんは何かを察したように柵を敷いた。
突き放されたようなそんな感じ。
「自分のことは自分で考えなさい。お母さんができることはもう全部終わってる。行きたいんでしょ? 好きにしなさい。後悔なんて先にたたないのだから、後悔を恐れちゃダメなのよ」
再び静かに置かれた。
「……ありがとう」
その言葉は私にとって最も求めていたことだし、常に持っていた柵を解いたものだった。
柵に入っていたのは私。
突き放された訳ではなく、一線を置いていたのかもしれない。
私は小さく頷いた。
決心。
この家を出よう。
美晴とずっと一緒にいたい。