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しぐれぐむ  作者: kazuha
その見える眼前の景色
156/200

156、




 美晴と一緒に歩いて近くの商店街に行った。


 私は肉屋やパン屋には目もくれずスーパーマーケットに入った。


 そこで緑の籠を取ると、野菜売り場に向かう。



「なんで野菜なんだよ」

「うるさい栄養失調。ビタミン取りなさいビタミン」



 私はいわゆる緑黄色野菜を取って籠に次々と入れていった。


 しかしながらこのスーパーは安い。

 ニンジンが5円とかだ。



 次に目に入ったのはジャガイモだった。

 袋詰め放題だったので、ふた袋挑戦する。


 私は5個が限界だったのに美晴は7個も入れてきやがった。


 平均は5らしいからまぁ上出来だと褒めておいてやろう。



 なんやかんや野菜は充実してきたので、次にお米を買うことにした。


 最近また値上がりしたお米たち。


 その中でも一番安いお米を買うことにした。


 それで不味くても文句は言えない。

 背に腹は代えられないのだ。




 それで合計が四千円くらいだった。


 それら全てを美晴の財布の1枚で払い、お釣りはそのままつっこんだ。




 それらをレジ袋に入れ、私はお米を持って、美晴はそのほかの野菜を持って帰る。



 ホントは卵とか肉とかも買いたかったのだけど、如何せんそんな余裕は無さそうだった。



 美味しそうなコロッケの匂いやケーキの美しい姿を無視して帰路についた。



 その途中、中央公園で休もうと美晴が情けないことを言うので、中に入りベンチに座った。



「おっも!!」


 そう叫んで荷物をベンチに投げた。


「もう、傷つけたら早く腐っちゃうんだから大切に扱ってよね?」

「腐っても食うし」

「お腹壊しちゃうからダメー」


 お米を抱えたままベンチに座った状態で辺りを見回した。



 日曜だからか子供たちが沢山いる。


 滑り台では次々と滑り降りていくし、ブランコは順番待ちが発生している。



 それらのお母さんたちは井戸端会議をしているみたいだ。



 たまに私たちを見てはなにかひそひそと言っている。


 日曜に若いカップルが買い物に行っちゃ悪いのか?



 やっとこさ座った美晴。


 夏なのに黒い服を着ていて暑くないのだろうか?

 それより、黒い服のレパートリーはどのくらいあるのだろうか。

 少なくとも長袖と半袖、さらにコートまでは知っている。

 本人ならさらに細かく言うだろうが、覚える必要性なんてなかったから聞かなかった。



「あっついなぁ」

「夏だからねぇ」



 よくよく耳を澄ましたらセミのジンジン鳴いている音が聞こえ始めていた。


 今年は暑くなるのが早い。



 私の視線に目の前を通った少年少女が入った。


 どうやらボールで遊んでいるらしく、投げつけたり蹴り飛ばしたり、ドッチボールなのかサッカーなのかわからない球技をしている。


 私たちの座っているベンチが1番道路に出る入口に近いため、少し危ないなぁと思いながら見ていた。


「なぁ、子供欲しいと思うか?」



 ……!!



「ま、まぁね」


「何人?」

「まぁ、男の子と女の子1人づつかなぁ」

「え! 3人欲しくない?」

「いやぁ。さすがに3人いると家事とか育児とか大変かなぁって」

「大丈夫だよ」



 そんな会話をしているときだった。

 少女が蹴ったボールが道路目掛けて転がっていっている。


 それを少年がよちよちと追いかけていた。



 そして、私の視界には大型のトラックが見えていた。









 これってやばくない?



 そう思っている間にも目の前を黒い閃光が走った。




 私も思わずお米を置いて、その後を追った。



 全速力。


 ボールが道路に出ると止まり、少年はそれを取る。



 クラクション。



 その音に気づいた少年はもう目の前のトラックに顔を向ける。



 やばい、間に合わない。




 トラックは急ブレーキを踏むが間に合うはずがない。



 そんな時にトラックの目の前に美晴が飛び込んだ。



 その刹那、トラックが少年ともども美晴を消した。








ーーーー引かれた!?ーーーー








 蹴り飛ばした少女が泣きわめいた。



 私は膝から崩れる。



 地面に座ると同時に親達が駆け寄ってきた。




 やっとトラックが止まる。




 もう、遅いよ。






「バカ野郎!! 飛び出すんじゃねぇよ!!!」



 そう叫ぶとトラックは走り去った。



 トラックが消えたあとに少年を抱えた美晴が見えた。



 ゆっくりと立ち上がる美晴。



 そのままこっちの歩道まで少年を抱えて戻ってきた。



 少年を降ろすなり、美晴はしゃがみ、何かを呟いている。


 叱っているようだ。



 少年は泣きながら頷いている。



 一通り終わったのか少年は自分の母親の所に行き泣く。







 美晴は私の側に寄ってきた。


 飛び込んだのだろう、左腕には擦り傷が出来血が出ていた。




 親が近寄ってきて美晴にもはや土下座同然にお礼をしていた。





 ただただ眺めているだけ。




 それは全てを眺めているだけ。



 それだけで、私は大切な人を失いそうになった。



 美晴が倒れている私に手を差し伸べる。



「なにしてんだよ。……帰ろうぜ。いてぇし」



 その手を使って立ち上がると同時に美晴の胸の中に飛び込む。




「バカ! バカバカバカ!! 死んじゃったらどおすんのよ!!」



 力いっぱい美晴の胸を殴る。



「私! 美晴……! いなくなったら……!! 生きてけないよ!!」




 何度も何度も殴る。



 泣き出してしまった私をただ優しく抱きしめる彼。



「もう! あんなことしないで!! 絶対にしないで!!! 誓って! 約束! 絶対!」



 なにも言わなかった。

 なにも返さなかった。



 私は美晴を罵倒し、そして泣きわめいた。



 この公園には、多くの泣き声が響いた。

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