155、
目覚めると目の前に美晴が寝ていた。
美晴の奥にあるのは白いカーテンに隠れた窓でそこからは光が差し込んでいた。
どうやら朝のようだ。
視線を美晴に戻すと、気持ちよさそうに寝ている顔をしている。
今日はしっかりと服を着ている。
彼の左腕は私の頭の下にある。
私はというと、彼に抱きつくように寄り添って寝ていたようだ。
クーラーの良く効いた部屋のため布団に篭っていたようだが、さすがに暑い。
ベトベトした汗を流したいのでシャワーを浴びることにした。
布団からのそのそと出るとさすがに寒かったのでクーラーを止めた。
ホントに何もなかったようだ。
酔っていたためなにがあってもおかしくないと起きて直ぐに思い胆が冷えたが、多少安心した。
軽く汗を流し、適当に持ってきたタオルで体を拭きまた同じ服を着た。
ベットに座ると、まだ起きない美晴の顔をまじまじと眺める。
普段はキツい目付きの上ほぼ無表情なため怖いが、今は笑ってるみたいでカワイイ。
寝息もすーぴーと言う音が聞こえる。
「ふふ、」
思わず笑みが溢れた。
いかんいかん!
これじゃただの変態じゃないか!
頭をブンブン振り、立ち上がる。
ご飯でも作ってあげよう。
前はなにも入ってなかった冷蔵庫。
恐る恐る開けてみるとやはり何もなかった。
あるのは冷凍のご飯と卵だった。
うぅん。
なにが作れるのか。
私は取りあえず玉子焼きを作ることにした。
油と砂糖を探し出し、まずフライパンを温めてからとかした卵に砂糖を入れてフライパンに流し込んだ。
上手く形を作りながら作るのは大変だった。
案の定あまり上手くいかず歪な形になってしまった。
「あちゃぁ……」
それでも焦げたわけじゃない。
お皿に盛り付け、一口味見してみた。
「……甘いなぁ。砂糖入れすぎちゃったかな?」
そう呟いた途端、後ろから抱きつかれ玉子焼きをつまみ食いされた。
「もぅ! 驚いたじゃない!」
「ごめんごめん。お、美味しい」
はふはふしながら食べられたそれの感想は私を笑顔に変えた。
「バーカ。ご飯もしっかり食べなさい」
「え? まだ平気だよ」
「ダメ! 私がちゃんと太らす。あと、私に許可なく飲みにも行っちゃダメだからね! お金ないんだからさ」
冷凍されているご飯を取り出し電子レンジに入れた。
「なんでだよ」
直ぐに不機嫌になる美晴。
「なんでって。私が彼女なんだからお金管理も栄養管理も、主婦である私の仕事でしょ?」
「……バーカ」
「バカじゃないし!」
電子レンジがチンと甲高い声を上げた。
「ほら、できたよ。質素だけど食べないよりはましだよね?」
私たちはその1杯のご飯と、卵1個分の玉子焼きを分けながら朝ごはんを済ませた。
「今いくらある?」
「ん?」
近くにある財布の中を見るとそこには昨日のライブ後の前給料を貰っていた。
「五千円は入ってる」
「お! 買物行こ!?」
「は! 勿体無い」
「いいじゃない! ほら、ちょうど食材無くなったんだからさ!」
渋々立ち上がる美晴。
私も立ち上がり美晴の手を取りその家から出た。
外はまだ午前だと言うのに暑かった。
刺すような太陽の光は少しばかり痛い。
だが、風は気持ちよく吹き抜けていた。
少し汗ばんだ私の髪がふわっと流れる。
そんな様子を見ているのか、美晴は私を見つめたまま数秒動かなかった。