154、
「乾杯!!!」
もはやシャウトがかった乾杯がかかった。
相変わらずオレンジジュースで乾杯してちまちま飲みはじめた。
今回はなかなか賑やかだ。
ざっと30人くらいはいるのだからそれもそうだろう。
晋三さんとテラコさんは明日も仕事らしいのですぐに帰ってしまった。
私は星空くんと話しながら出てきた食事をつまんでいた。
こんな会もすぐにお開きになる。
終電を逃したので、美晴の来るまで帰ることになった。
珍しく飲んでいないのだ。
私と土門さん、それに星空くんとカジくんで帰っていた。
道的に、星空くん、土門さん、そしてカジくん、私という順になるらしい。
さっさと降ろしていき、今カジくんを送っている所らしい。
疲れた私は後部座席でウトウトしていた。
時間は既に1時をゆうに越えていた。
「なぁ? 美晴。時雨ちゃんと一緒におろせよ?」
眠たい目をバックミラーに向けた。
暗くて何も見えない。
横から入り込む街灯の光がたまに映るぐらいだ。
「なんで?」
「決まってんだろ。俺のもんだからだよ」
脳が麻痺していた。
半分寝ていてなんの会話かわからなかった。
「まだ、やってないんだろ? 彼女のはじめてを貰うのよ」
「どうしてそうなるんだ」
「お前のものは俺のもの。いや、お前はこの子を壊す。その前に俺が貰う」
「そんなことない」
「そんなことあるだろ。コイツ、自分から体をあけ渡そうとしたんだぞ? 俺に。もう既に壊してるんじゃないか?」
「そんなことない」
「自分のからだが自分だけのものと思うなよ。お前は昔からそうだ。だから」
「うるさい。どうでもいいだろ」
車が止まった。
どうやら着いたみたいだ。
目を開けるとカジくんが後部座席のドアを開けていた。
「ほら降りろ。望み通り朝まで付き合えよ」
美晴もカジくんの隣にいた。
なんだ、3人で朝まで飲むのかな?
なら、いいや。
そんな軽い気持ちだった。
私は車から降り、差し出された手に触れた。
瞬間抱きしめられて、唇に温かなものが触れる。
それがカジくんの唇だと言うのに気づいたときにはもう離れていた。
「な! なに!?」
私は突き飛ばした。
しかし、しっかりと抱かれていて離れない。
「なんだよ、いてぇな。ほら行くぞ」
意味がわからない。
なにが起きた。
まだ夢の中なのだろうか。
「いや……」
ほとんど発せられなかった。
拒否と言うよりは、美晴の前でこんなことことをされるなんて嫌だった。
拒否じゃなく羞恥。
美晴がいなければ、
美晴がいなければ、
美晴がいなければ、
「よしはるぅ……」
刹那、私の目の前の彼は、もう一人の彼に殴られ、その場に倒れた。
美晴がカジくんを殴った?
「なにすんだてめぇ!」
「すまん。それでもやっぱり、諦められねぇ」
「まだわからねぇのか! もう、いねぇんだよ!」
「わかってる!!」
「わかってねぇ!」
カジくんが立ち上がり美晴も殴る。
美晴は地面に倒れる。
「わかってねぇ! このくそが! お前が時雨ちゃんを幸せにできると思ってるのか!!」
「死ぬ気で幸せにする!!」
美晴がお返しにともう一発殴る。
そして私の手を取り車に乗り込んで逃げるように走らせる。
一連のことがなにを意味するのかわからなかった。
ただ、わかったのは、私はまだ美晴のことが好きだと言うことだ。
幸せにする?
バカじゃないの?
もう、結構幸せだよ。