148、
ライブは相変わらずだった。
新曲もアレスが書いているのでいつも通り甘目の曲目だった。
その中で唯一カジくん本人が作曲したとされる完全ロックの曲は意外にも好評だ。
今日もライブのチケット切りをしていた。
もう1人でこの人数をこなせるようになったので、全てまとめて、一息ついていた。
今日のドリンカーは皐月さんではなかった。
私の知らない女性にオレンジジュースを貰った。
それをちまちま飲んでいるとふらっとカジくんが出てきた。
「あれ? まだ終わってないよ?」
カジくんは電話越しで聞いたように高らかに笑った。
「今、ダンドリオンの後輩バンドがやってるから休憩。ちゃんと演目くらい確認してよねぇ」
そんなこと言われてもパンフレットも細かな流れが書いた紙も私は貰っていない。
反論しようと思ったらカジくんがドリンカーの人にカクテルを頼んだ。
「にしても、時雨ちゃんから誘ってくるなんてねぇ」
本当は今日の飲みはないらしい。
明日みんな朝早くに飛行機で北海道なんだそうだ。
なので、今日の飲みは私が誘う形で、それでいて断られたことになる。
「まぁ、いつでも飲みなら誘ってよ。時雨ちゃんの為なら、いいとこのホテルも予約しておくよ」
カクテルがプラスチックコップに入れられて出されたのをカジくんは受け取った。
「下心ありありなのもあんまりよくないと思いますよ」
「時雨ちゃんが誘ってるんじゃんか」
あれは私が誘ってるということになるのか。
人生経験上したことないからわからなかった。
どっちにしろ、そんなつもりはない。
「あ、そうそう。俺が時雨ちゃんを奪おうとしてるのは、美晴のものだからとか思ってるでしょ? いや、皐月から聞かされたでしょ」
カクテルを一口飲んだカジくんは急にそう切り出す。
正直そう思ってる。
「残念ながら違うよ。俺は一目見たときに、時雨ちゃんを好きになった。わかる? 一目惚れ。だから、俺は本気だぜ」
カジくんから笑みが消えた。
まっすぐした視線が私を捕らえた。
心臓がひっくり返りそうだ。
急な告白に心臓が激しく鼓動する。
そんな時に拍手が聞こえた。
「おっと! もう終わかよ。まぁ、ってことでもう俺のものだからな? わかったな?」
そう言ってカジくんは消えていった。