146、
冷蔵庫を力強く閉めた。
もはや睨む形になっていた。
「なんで言ってくれなかったのよ!」
美晴が目を逸らす。
私は美晴に近づき両ほっぺを叩くようにして顔を私に向かせた。
「ねぇ。そんなの黙ってられたら嫌なのよ! 私が私を許せないじゃない! 美晴がそうなるなら私、美晴の彼女になんかなりたくなかっ……!」
その先を言わせないように、口を口で塞がれた。
かなり長かった。
抱きしめられて、抱きしめ返したけど、私の怒りは収まらず、抱きしめた手で美晴の背中を叩く。
離してもらったら、直ぐに顔を背けられた。
「ねぇ。……ちゃんと頼ってよ。私だってやれることあるよ。なんで全部背負うの? バンドのことも、カジくんとのことも」
彼は黙ってしまった。
今までしたことがない頼ることを、やっぱりできないと言っているようだった。
それでも、言葉が出るまで待とうと思った。
外の車のエンジン音が聞こえる。
若干その振動が家を揺らしているようだった。
「わかった頼る。でも、オレのケジメはオレでつける。それだけだ。だから、オレは……」
言葉が止まった。
ホントに意味がわからない。
「だから、それを頼りなさいって。私、美晴と一緒に悩みたいし苦しみたい、笑いたい、喜びたい! でも、なんで美晴は……わかってくれないの……。なんで1人で苦しんで、悩んで、ご飯も食べないで……。なら私頑張ってバイトするし、毎日美晴のご飯だって作る。お昼だってお弁当用意する」
「ごめん……」
溢れていた気持ちも言葉も、その一言で一掃された。
ごめん?
なにそれ……。
「ごめん……」
意味が知りたい。
そのごめんは何のごめんなの?
それを聞いたら、私は溜りに溜まった涙を一気に放出してしまう気がした。
「ごめん。オレ……、なんでもない」
「ーーーーもう、知らない!!!」
私は美晴の家から出ていこうとドアを開けた。
「美晴が私のことちゃんと見てくれないなら、別れよ? そうだ、別れようよ。もう、私、いやなんだ」
最後に美晴の顔を見て家を出る。
そして、覚えた道のりを逆走する。
さっきの申し出が受理されたら、今度こそ本当に破局となる。
今までは私が一方的にフラれて、それでこそ裏があって私は意地でも別れようとしなかった。
でも、今は本当に別れてもいいと思っている。
最初から合わないことなんてわかっていたじゃないか。
相手は超有名作曲家。
私は平凡以下の大学生。
釣り合う所なんてない。
必ず傾いていて、安定さえもしない。
電車に乗ってから唇をハンカチで拭いた。
まだ、私の体は美晴の匂いがした。




