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しぐれぐむ  作者: kazuha
その見える眼前の景色
146/200

146、




 冷蔵庫を力強く閉めた。


 もはや睨む形になっていた。



「なんで言ってくれなかったのよ!」



 美晴が目を逸らす。


 私は美晴に近づき両ほっぺを叩くようにして顔を私に向かせた。



「ねぇ。そんなの黙ってられたら嫌なのよ! 私が私を許せないじゃない! 美晴がそうなるなら私、美晴の彼女になんかなりたくなかっ……!」



 その先を言わせないように、口を口で塞がれた。



 かなり長かった。



 抱きしめられて、抱きしめ返したけど、私の怒りは収まらず、抱きしめた手で美晴の背中を叩く。



 離してもらったら、直ぐに顔を背けられた。



「ねぇ。……ちゃんと頼ってよ。私だってやれることあるよ。なんで全部背負うの? バンドのことも、カジくんとのことも」



 彼は黙ってしまった。


 今までしたことがない頼ることを、やっぱりできないと言っているようだった。



 それでも、言葉が出るまで待とうと思った。


 外の車のエンジン音が聞こえる。


 若干その振動が家を揺らしているようだった。


「わかった頼る。でも、オレのケジメはオレでつける。それだけだ。だから、オレは……」


 言葉が止まった。


 ホントに意味がわからない。



「だから、それを頼りなさいって。私、美晴と一緒に悩みたいし苦しみたい、笑いたい、喜びたい! でも、なんで美晴は……わかってくれないの……。なんで1人で苦しんで、悩んで、ご飯も食べないで……。なら私頑張ってバイトするし、毎日美晴のご飯だって作る。お昼だってお弁当用意する」



「ごめん……」



 溢れていた気持ちも言葉も、その一言で一掃された。


 ごめん?


 なにそれ……。



「ごめん……」




 意味が知りたい。


 そのごめんは何のごめんなの?


 それを聞いたら、私は溜りに溜まった涙を一気に放出してしまう気がした。



「ごめん。オレ……、なんでもない」



「ーーーーもう、知らない!!!」




 私は美晴の家から出ていこうとドアを開けた。



「美晴が私のことちゃんと見てくれないなら、別れよ? そうだ、別れようよ。もう、私、いやなんだ」



 最後に美晴の顔を見て家を出る。


 そして、覚えた道のりを逆走する。




 さっきの申し出が受理されたら、今度こそ本当に破局となる。


 今までは私が一方的にフラれて、それでこそ裏があって私は意地でも別れようとしなかった。



 でも、今は本当に別れてもいいと思っている。


 最初から合わないことなんてわかっていたじゃないか。



 相手は超有名作曲家。


 私は平凡以下の大学生。



 釣り合う所なんてない。


 必ず傾いていて、安定さえもしない。



 電車に乗ってから唇をハンカチで拭いた。




 まだ、私の体は美晴の匂いがした。

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