145、
お互い午後に授業が無かったためこのまま美晴の家に向かった。
私の家の最寄りから電車で五駅、そこから徒歩15分のアパートの2階の3号室のキッチンとダイニングがある家だった。
中に入るとタバコの臭いが私を襲った。
「……うっ!」
鼻を摘んで部屋を見ると、キッチンの近くにある物置用のテーブルに置いてある灰皿に山盛りにタバコが吸い捨てられていた。
私はパンプスを脱ぎ、部屋に上がりそれを指さして言った。
「もぅ。減煙くらいしたら?」
美晴は意外と片付いていたダイニングのベッドに腰を下ろした。
「え? これでも1日3本って決めてんだよ」
「もうちょい頑張ってよ。ガンで死ぬとか嫌だからね」
「はいはい」
とりあえず見回すと部屋は綺麗だった。
特に基調とされている色はないが、統一感はあり無駄なものはない感じである。
水道をひねると水は出るし、ガスも通っている。
テレビもあれば冷蔵庫もあり、人並みの生活は送れているであろう。
冷蔵庫を開けてみた。
驚いた。
冷凍されているお米が冷凍部に4個入っているだけで他になにも入っていなかった。
「ねぇ、オカズは?」
冷蔵庫を閉めて本を開いていた美晴に聞いた。
「なに? 作ってくれるの? だったら今日は焼きそばがいいなぁ」
「いや、そうじゃなくて、いつもはどうしてるの? 例えば昨日とか」
焼きそばがオカズに入るのか否かはさておき、私は疑問をそのままぶつけた。
「昨日? 昨日ねぇ……なにか食ったっけ?」
とんでもないことを聞いてしまったのかもしれない。
「ねぇ、通帳。見せて」
「は? なんで?」
「じゃぁ、財布! 見せなさい!」
ベッドの脇に置いてあった財布を半ば強制的に奪い中に入っている金額を数えた。
「62円……?」
数えるに値しない額だった。
お札は全く入っておらず、小銭も銀に鈍く光る小銭はあれど、穴が開いている小銭はひとつも無かった。
「ねぇ、どういうこと!」
「どういうことって、そのまんまなんだけど……」
「貯金はあとどれくらい?」
「ええっと……」
呆れてものが言えなくなってきた。
いつ、こんなことになっていたのか。
「いつ?」
睨みつける。
「いつからなの。まともに食べてないのは」
彼は答えることを拒んでいるのかうつむいてしまった。
「ねぇ、もしかしてずっと?」
私の考えが間違っていなければ、あの日だ。
「去年のクリスマスから?」
「ーーーーあぁ。あれからずっとだ」
なんで気付かなかったんだ!
ずっと一緒にいたのに!
どうして気づけなかったんだ!
こんなになるまでに!
自分を責め、彼を責め、このどうしようもない感情をただ怒りに任せて放出するしかできなかった。