142、
歌い終わったところで、拍手が湧き起こる中、星空くんだけはお化けでも見ているような目をしていた。
私はひとりお辞儀し、今更の恥ずかしさを隠すために足早に自分の席に戻った。
「風花……」
「……え?」
星空くんがぼそっと言葉を発した。
かざはな?
なんなのだろう。
記憶の彼方に1回だけそれを聞いたことがある。
「ねぇ、時雨ちゃん。大好きだよ」
星空くんが悲しい笑い方をしながら私を見てそう言った。
とうとう、この子も酔っ払ったのだろうか。
「あはは。大好きだよ。お姉ちゃん」
なんだどうした!
急に俯き泣き始めるものだから、私は近づいて背中をさする。
そうしていたら、彼は私に抱きついてきて胸の中で泣いた。
「あ、時雨ちゃん泣かしたなぁ」
「いやいや! 私なにもしてませんですし!」
通りかかった皐月さんがそんなことを通り魔的に言うのだからつい声をあらげてしまった。
「ええよええよ。泣かしたくなるもんねぇセラは」
「皐月、あんまり変なこと言ってないで助けたらどうだ?」
星空くんの隣にいる晋三さんがブランデーの入ったグラスを置くとそう優しく言った。
「いやいや。なにもせぇへんあんさんが言ったって説得力ないでぇ」
同意する。
「そんなこと言われてもなぁ。毎度の如く美月関係なんだからどうしようもないだろ」
「だったらあたしはなにもしなーい」
もはや暗黙の了解的なものなのだろうか……。
星空くんはとうとう私に抱きついてきた。
そして、急に顔を近づけてきて迫ってきた。
と同時に美晴が星空くんを殴る。
「おら、オレの女に何しとんだわれ。どさくさ紛れによ」
「あぁあ。折角キスできると思ったのに邪魔するなよ」
「だからオレの女だっつうの」
もう一発殴る。
「もう、痛いって」
「あ゛? 気のせいだろ」
さすがにもう一発目は酷いと思った。
「うわーん。時雨ちゃん! 美晴がいじめるよー」
また顔を近づけてくるものだから私も顔を一発殴った。
「うわ、ださ」
「時雨ちゃんにも殴られた……ショック……」
何も悪いことしてないのだが……。
そもそもの原因は星空くんだし……。
「おら、星空。次お前が歌え」
「は? なんでよ! 今日は何も準備してないし」
「いいからやれ」
ここから、順ぐり皆歌うことになるのだが、土門さんとか晋三さんとかは普通にカラオケレベルだった。
まぁ楽しいからいいけど、音楽やってる人でもやっぱり普通なんだなと思った。
宴は朝まで続いた。




