140、
「晋三ってそういえば家何処なの? 土門がここらへんから引っ越したとか言ってたけど」
星空くんがしゃべる声が耳に入った。
私はその話が気になり、体をそっちに向けた。
「ん? あぁ」
と言うなりカバンから手帳を出し、一番後ろの所にある地図を広げて指さした。
「え! 遠くない?」
「電車とバスって所だな。まぁ会社までは1時間で着くからそこまで遠くない」
私は体を乗り出してその場所を確認した。
「あ、ここらへんって海が近い場所ですよね」
「時雨ちゃん……。地図見ればわかるよ、そのくらい」
星空くんにそうつっこまれると急に恥ずかしくなった。
「あぁそうだ。夕日が綺麗に見える公園も近くてな。よく見にいったりするよ」
やっぱり。
前、カジくんと美晴と行ったあの場所だ。
少し思い出して首を横に振った。
「ここから遠いのに、行ったことあるのか?」
「はい、1回だけ」
そう言うと晋三さんはビールを飲み干した。
「そうか。まぁ、あんまりオススメはしないよあそこは」
オススメされても、当分は行きたくない。
私は気を改めるためカシスオレンジを飲んだ。
途端に隣に座ってきたテラコさんに肩に手を回された。
「ねぇ時雨ちゃん。美晴とはどうよ?」
「えっ……と……。なにがですか?」
「決まってるじゃない! やったのかやってないのかよ!」
この人既に酔っ払いだ。
そう気付いた時には催促の意味の、耳が私の口の前に出てきた。
「ほらいいなさいよ!」
「べ、別に……」
「ほら! あの時! 時雨ちゃんが泥酔した時! あの時は大変だったわ! 私と美晴とで時雨ちゃん美晴の家に運んで、そしたら時雨ちゃんの服がなんか泥まみれになってるのに気付いて、私すぐ洗ったからね! 偉いでしょ」
急になんの話かと思えばあの日のことか。
起きたら私が全裸で寝ていた時だ。
「え? テラコさんいつ帰ったんですか?」
「え!? いつ? ……うぅーんとねぇ。朝!」
朝。
それは……。
「そういえば、美晴は吐いたのを服にかけたみたいで、裸で椅子で寝てたなぁ。マジ面白かったわよ」
ちょっと待ってちょっと待って。
なんかがおかしい。
私が起きたのは何時だっけ?
午前だった。
結構はやい時間だ。
美晴はやったと言った。
それをテラコさんが見ていた、ということになる。
ならこんな会話になるはずがない。
私が美晴の家に運ばれて、私の服がきっと美晴の嘔吐物で汚れ、それをテラコさんが洗い、各々寝て、朝起きてテラコさんは出勤、私はその後で起きた。
なんとも、くだらない嘘だった。
私はまだ、純粋なのか?
「ねぇだからどうなのよ? やったの?」
わからない。
わからない。
あの時、ホントにやったのだろうか?