139、
カランカラン。
軽い音が久しぶりに鳴り響き、いきなりコーヒーの芳ばしい匂いと料理の芳しい匂いとで私の空腹を刺激した。
「お、やっと来たね時雨ちゃん」
「ごめん待った?」
「待つも何も、まだ準備終わってねえっての」
土門さんが料理を運ぶ後ろを、皐月さんも同じようについていっていた。
「お、おひさしゅう時雨ちゃん。お店にも顔ださんからどうしたのか気になったで」
「え? やってたんですか? てっきり土門さんがいないからやってないものだと」
「まぁ、やっとらんかったけど。アタシがいつも練習に来てたからお店は開いてたで」
お休み中もずっとやってたんだ。
そう思うと急に手の絆創膏に気がついた。
かなりの数。
誰もが通る道なのだろうか?
それとも、皐月さんの不器用を語るのだろうか。
とにかくかなり練習したのだろう。
料理が置かれた。
お店のテーブルが引っ張りだされて真ん中に1本の長いテーブルを作っていた。
そこにはサンドイッチやおにぎりの主食から、ハム、チーズ、さらにはサラダやセロリ単品まである。
バイキング形式なのか周りには椅子が置かれてなく、あくまでも食べる専用のテーブルのようだった。
「詰まってんだけど」
「うわ! ……ごめん美晴」
私はしっかりと店内に入ると、バーカウンター越しにテラコさんが何やらお酒を作っているようだった。
私を出迎えてくれた星空くんは既に飲み始めており、少し饒舌なまま晋三さんと話していた。
宴と言うよりは、確かに雰囲気パーティーだ。
まぁこの後かならず宴に変化することはわかっているが。
「よし、終わり! 酒くれ!」
「土門はビールでしょ。自分で作りなさいよ」
「今日ぐらいいいだろ?」
「じゃぁ、レッドアイでいい?」
「それだけはやめろ」
私もお酒を貰いにカウンターに向かった。
今日ぐらいいいよね?
お酒飲んでも。
私はテラコさんからカシスオレンジを貰い、みんながグラスを持つのを待った。
未だにビールでうだうだ言ってる土門さんが結局四人分つぐことになりこれでやっと全員がグラスをもった。
「それじゃ、みんな! お疲れ様でした!!」
「お疲れ様でした!!」
美晴が音頭を取り全員の怒声にも似た声を張りあげる。
そうして始まる急激な宴。
流石に早すぎだよ。
ビール勢はそれを一気に飲み干し、新しく注いでいる。
私はもはや見ないようにして、皐月さんと一緒に料理を取りに行く。
全部食べなきゃ。
どれも美味しそうでいっぱい取りそうだけど、なるべく少なく取る。
「時雨ちゃんわかってるねぇ」
「いやぁ、全部食べたいじゃないですか」
「せやね! あ、それアタシが作ったやつ!」
そう言われると食べたくなるものだ。
スクランブルエッグを指差す皐月さんの目の前でそれを取り、直ぐに食べた。
「うお! この女、公開処刑と来たか!」
「なんですかそれ……。美味しいですね!」
「ほんまか! お世辞でも嬉しいわぁ」
「いやお世辞だな」
いつの間にか背後に来ていた土門さんが辛口にそう言う。
「少しやっぱり胡椒多いな。これだとどこぞのファストフード店と一緒だ」
「むぅ、こういう時ぐらい忘れさせてぇな」
もう、料理に鬱々し始めたのだろう。
お酒が入ってるから本音がよく出る。
私は料理を持ってカウンターのいつもの場所に腰をおろした。