137、
美晴も車で来ていたみたいだ。
公園の駐車場には私が乗ってきたカジくんの車は見当たらなかった。
もう帰ってしまったのか。
2人で車に乗り、夜の国道を走る。
国道はやっぱりと言っていいほど車の通りが多く、ライトの光が空の星を消していた。
会話がないまま既に17分が経っていた。
私は助手席に座っていて、思い耽るようにサイドミラーのその先を見ていた。
ああは言ったもののやっぱり気になる。
美晴の罪と言うものを。
別に咎めようとも、警察に突き出そうともあまり思っていない。
その時になってみないとわからないけど。
でも、秘密って言うものは腑に落ちない。
私の知らないことがあるだけで、なにか嫌だ。
こんなつまらない嫉妬染みたことしたい訳じゃないのに、少しイライラしていた。
イライラがイライラを生んで、嫉妬だとか嫌悪だとかそういったものが五臓からふつふつと湧き上がって、それを抑えることにさらにイライラは増していく。
「美晴」
「……なに?」
赤信号で止まった。
なんで私は美晴を呼んだのかわならなかった。
「ちゅーして……」
嘘。
カジくんにされて、気持ち悪くて、その上乗せをして欲しかった。
でなければ今すぐにでもお風呂に入ってシャワーで、口を30分くらい洗っていたかった。
「こんなオレでもいいのか?」
それは情けないと言う意味なのだろうか。
これだから男はわかっていない。
信号が青になると、少し遅れて車は優しく発車した。
「なに、してくれないの? してよ」
自分を抑えられない。
欲望?
欲求?
わからない。
でも、欲しい。
今までの人生の中で、ちゅーを否定していたこともあった。
卑猥だとか気持ち悪いだとか。
でも、触れることでわかることもあるのだなと思った。
なにごとも始めてみなければわからない。
「わかったよ」
車が止まった。
もう、私の家の前だった。
空気読めてないなぁこの男は。
もっと2人でいたいのに。
すっごい待ったのに。
わかってない。
美晴が先に車を降りてドアを開けてくれた。
その行為に甘えて私は降り、直ぐに美晴に抱きついた。
「よしはるぅ」
普通だったら鼻から消しかけるような甘い声も今じゃしょうがないとも思えるくらいの気持ちだった。
「なんだ?」
「寂しかった」
恥ずかしいなんてものより、安心したかった。
まだケリのついていない問題も、最近ライブでいなかったことも、その内いなくなることも、全てが不安で不安で仕方なかった。
美晴は黙って私を優しく抱きしめた。
温かい。
ただそれだけで、涙が目を潤ませた。
そのまま、私から美晴の唇に自分の唇を当てた。