136、
奪った。
なんだろうこの違和感。
そろそろわかりそうなのに、まだわからないことがたくさんある。
「全部お前のせいだ。お前が悪い。お前が! お前が!」
また、風が木々を揺らし、虚しい音が静かに鳴る。
太陽の光なんてもう微弱だった。
そろそろ暗闇の世界に、美晴とカジくんは睨み合い今にも殴り合いそうだった。
言う事を聞くようになった体を立たせる。
「時雨は違う。時雨は」
「なにが違うんだ!? どうせまた!」
「それ以上言うな!」
「なんでだ? そうか、まだ自分の犯した罪を話してないのか。そりゃそうだよなぁ。話したら、みんなどっか言っちまうもんなぁ!人を……」
「やめろ!」
カジくんは高らかに笑った。
それが怖くて、怖くて……。
1歩2歩下がる。
「必死だな! 必死過ぎて怖いよ! 何やったの? 自分で言ってみる?」
「もう、そのことは終わったじゃないか」
「終わってねぇよ! 終わるはずねぇ!」
この場から逃げたい。
これ以上話を聞いていると私が壊れてしまいそうだった。
足が勝手に逃げようと後ずさりをゆっくりとしていた。
「忘れさせねぇ! 永久にお前に罪滅ぼししてもらうためになぁ!」
その言葉を聞いた瞬間だった。
そういえば、後ろって、断崖絶壁だったんだ。
足を滑らせる。
足が崖を踏み、体勢を崩すまでに多少のロスがあった。
少しだけ冷静になれた。
すぐ近くにいた木を右手で掴む。
そのあとで体勢が崩れ両足の下が海になる。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」
今更声が出た。
自分の体を右手だけで支えている。
火事場の底力。
案外楽に出るものだ。
「時雨!!!!」
直ぐに美晴が駆けつけてくれて助けてくれた。
助けあげられたとき、私は急に襲った緊張から解放され、はらはらと涙が勝手に流れ出す。
「ったく。相変わらずだな」
「美晴……、ひっ、美晴ぅ、うぅ」
抱き寄せられたその胸はまたたくましくなった気がした。
そのまま泣き止むまでここにいたが、さほど時間が経っていないことに気付いた。
つまらなくなったのかカジくんの姿はなく、誰もいないこの場所にはどうやら私たち2人だけのようだった。
無言が続いた。
海の方を見れば漆黒の空とかがやく下弦の月。
そして、辺り一面の輝く星だった。
それら全てを海が写取り、真似て美しく見せていた。
見ている世界がまるで宇宙にいるかの如く、無重力的に混ざり回っていた。
「なぁ、オレ」
「言わなくていいよ。言いたくないこと」
私は察してそういう。
「話したいときに話して。私それまで待つよ」
この時だった。
彼が私の胸に顔を埋めたのは。
すすりなく様な音がするが、海の波の音かもしれなかった。
それだけ、小さく、弱かった。