135、
抵抗しようと突き飛ばそうとするが、手が抑えられて身動きさえ取れなかった。
彼から離れるまで私はなにもできずただ彼の所業を受け入れるしかなかった。
彼は自分の唇を舐めた。
「ヨシ。貰ってくからな」
「…………っ!」
いつの間にか腰に回されていた手が離れた瞬間、自分の体を支えることができなくなってその場に崩れる。
見上げると、怖い笑い方をするカジくんが私を見た。
悪寒が体を襲う。
段々と暖かくなっていっているのにも関わらず、潮風が私の体温をどんどんと持っていった。
「な? あんな奴より、超有名で超かっこいいオレの方がいいよな? それともなにか? ダサダサなヨシの方がいいのかなぁ? まぁ選ぶ権利はないけどな。時雨ちゃんは、オレが全て頂く。初めから最後までな」
カジくんが美晴を見る。
私も助けを求めるように彼に目を向けた。
「なぁ? まだだもんなどうせ。土壇場になっても、度胸がねぇから、襲わねぇしな。ははは! マジでだらしねぇ」
美晴は視線を反らした。
なにも言い返すことができないから。
ーーーーねぇ、助けてよ。
そんなかじかんだ心の叫びなんて彼は聞こうともしていないだろう。
どうして? というよりも見捨てられた方が強い。
「は! やっぱりお前なんてそうなんだよ! どうせな!」
カジくんが地面に座っている私に覆いかぶさるように私を押し倒し、服に手をかけた。
「やだ!」
その手を払いのけるがそれでもしつこく剥がしにかかる手は私の服を次第に脱がしていった。
「やだ!」
抵抗。
しかし、男と女の力の差なんて一目瞭然だ。
いや、見る必要さえない。
抵抗。
そろそろ本当に脱がされてしまう一歩手前だった。
馬乗り状態だったカジくんを美晴が殴る。
顔だった。
いきなりのことで彼はそのまま私の上からいなくなり、美晴が私を庇うようにカジくんとの間に入る。
「ヨシてめぇ!」
「これ以上なにもさせない」
「うるせぇ! てめぇが手にするもの全部壊れる運命なんだよ! てめぇが全てを壊してくんだよ! それをオレが壊さないように預かってやるっつってんだ! なのになんでオレに逆らう!!」
物凄い怒声が海に跳ね返る。
夕日が水平線に浸り、そろそろ日没だ。
美晴の顔は見えなかった。
ただその夕日を背にして、彼はこう言った。
「また、壊すかもしれない。また、同じことをするかもしれない。でも、それでも、オレには守りたいものがある。どんなに小さいものでも、どんなにくだらないものでも……」
「またか! またそうやって同じ過ちを繰り返すんだな!」
「違う! オレはコイツを、時雨を愛してるんだ」
「は! くだらねぇ! 愛とか恋とか、オレにとっちゃ食らって捨てても余るようなものを、なんでお前はそれにこだわる! そんなの決まってる! そうしなきゃ貰えないもんなぁ!」
「それは違う。カジがわからないだけだ。ホントの愛」
「知ってるよ!! 知ってるに決まってんだろ!! 忘れられるわけねぇ!! それをお前が奪ったんだからよ!」