133、
「カジくんじゃないか」
そんな中、急に大人びた声が飛んできた。
私も声の主に目を向ける。
それは茶色がかった黒の長い髪は後ろで1つにゆわれており、メイクなどしていない顔だが美人だなと思い、それでいてシワも深くなり始めている感じがある。
しかし、服はメイド服のようなふりふりのエプロンでなんだかそれっぽく見えてしまう方だった。
「奈保美さん。ご無沙汰してます」
「やぁカジくんお帰り。いつぶりだろうね」
他人行儀だなぁ。
ふと、そんなことを思った。
私の推測だが、カジくんもまた、ここの孤児だったのかもしれない。
「1ヶ月と4日かな? ライブで延びちまったからさ」
「そのくらいね。まぁ、来てくれるだけありがたいんだけど」
「あ、そうそう。振り込んどいたから使って」
「え! また! いいって言ってるのに!」
「黙って受け取れ。大体いつ潰れてもおかしくねぇんだからここ」
「そうなんだけどね。ありがたく受け取っておくわ」
ここにきて、彼女の視線が私を射止めた。
「恋人?」
「違います」
「そうそう、オレの彼女」
この人は平気でそういった戦略的に手を伸ばしてくる。
飽きれて溜め息を吐いた。
「またむりやり? よくないよ」
「女ってのはこういう感じが好きなんだよ」
なかなか最低発言してますが……。
2人の会話を聞いていたら袖を引っ張る感覚に視線を落とした。
「おままごとしよ?」
使い古されたうさぎのぬいぐるみを持った少女と言うには若すぎる女の子が潤んだ瞳を私に真っ直ぐ向けて、袖をちょんちょんと引っ張ってくる。
……。
……かわいい。
「いいよ」
「え! ほんと? やったー!」
そのまま私はその子に手を引かれてなかなか大きな家に向かって行っている。
「ーーーーやっぱり東京……」
不穏な会話。
それは私自身がかなり気にしているワードだった。
気にしているがあまり、過敏になりすぎているだけかもしれない。
だってカジくんなのだから。
東京になんて何回も行っている。
あれ?
ここからでも通える?
いや、片道、新幹線使ってもかなりの時間必要だ。
普通にやるならやっぱり引っ越すのが妥当だよね?
そう、自分を納得させていた。
でなければ、私は凄いわがままを言う事になる。
そこまで、子どもじゃない。
もう、決まったことだ。
そのまま、女の子1人と遊んでいたら段々と周りに子どもたちが増えていき、とんでもない量の遊びを請け負うことになってきていた。
私はもはや自分に呆れながらも、そこにいる全員が楽しめるように接した。
だが、ここで男の子が、女の子を殴った。
いや、もはや事故で殴った形になっただけだが。
「大丈夫?」
うさぎのぬいぐるみを持っている女の子だった。
私の顔を見るなりどんどん顔が歪んでいき、涙を浮かべ始め、息を精一杯吸い込んで、挙句の果てに大声で泣き出してしまった。
それを聞きつけて直ぐに奈保美さんは現れた。