131、
車はそのまま国道を真っ直ぐ走っていた。
このまま果てしなく真っ直ぐ行けば東京だ。
あぁ、帰れない所までお持ち帰りされてしまうのだろうか。
「そういやぁヨシどうだった? 倒れたりしてた?」
バックミラーを気にしながらハンドルをきる素振りはほぼ無い。
多分、曲がることはしないのだろう。
「あのぉ、見つけたときに倒れて、今保健室で寝てると……思います」
「ふーん。やっぱ倒れたかぁ」
原因はやはりこの男だったか。
「いやぁ、相変わらず体弱いよヨシは。昔っからねぇ」
意味深に笑う。
本当に昔からの仲を知らしめているようだ。
「……なにか、……なにかしたんですか?」
そう意を決して聞くと車が急停車した。
前のトラックが急に止まったみたいなのだ。
「あ゛! 急に止まんじゃねぇよカスが! 下手くそか!?」
一瞬自分に対してだと思い、心臓が止まった感触がした。
「なにもしてねぇよ。全国ライブ中は大体が過酷な条件下で行われる。相変わらず体力がねぇんだよあいつは」
イライラしながら、そう答える。
この人はどこに向かっているのだろうか。
できるだけなら早々に着いて欲しい。
何処であろうとある程度覚悟はしている。
もう、初めても取られているし失うものは気持ちの問題くらいだろうから。
「そう言えば、やっぱり時雨ちゃんはヨシと付き合ってたんだねぇ」
ニヤリと笑うのが後ろからでもわかった。
「全くアイツにはもったいないくらいだなぁホントに」
その言葉の裏に隠された意味は直ぐに理解できた。
しかし、目の前の彼はあえてそれを伏せて嘲笑うかのように右に車のスピードを上げていった。
「何処に向かってると思う?」
その質問は野暮だ。
どうせ。
「きっと、時雨ちゃんが思っているような場所じゃないと思うよ」
え?
「あ、今え? って思ったでしょ。あは、正解。まったくビッチだなぁ君も。お望みなら直ぐにでも入ろうか?」
「嫌です!」
「意外としっかりとモノを言うね。性格に似合わず」
この人はさっきっから何を言っているのか。
ーーーー何故、そんなに私のことをさも知っているかのように話せるのか。
酔った勢いで洗い浚い美晴が喋ったか?
まさか……。
「おっと、ここだ」
車は急に右に曲がり、私は体を支えられず窓に頭をぶつけた。
「さっきっからぶつけすぎ。車壊す気? 殺すよ?」
「違います……」
頭をさすりながらまた真っ直ぐ進む車に身を戻した。
「運転が荒いんです」
「オレに口出しとかマジ笑えるわ。クソな女だな」
お前に言われたくない。
危なく口に出そうになった。
私は言葉を呑んだ。
その後は多少無言が続いた。
車が小刻みに右へ左へと曲がるため、彼がそこに集中している為も理由としてあるが。
「おら、着いたぞ。付き合え」
そう言われるがまま降りたのは、何の変哲もない大きな公園の入口だった。