130、
昼食も終わり、午後にも授業があったので受けないわけにもいかず、美晴は保健の先生に任せることにした。
疲労で道端で倒れることがあるんだなぁ。
そんなくだらないことばかり考えていた。
どんな生活をしていたのだろう。
全国ライブって過酷みたいな言い方されるからそうなんだろうとは思うけど、それにしてもあそこまで身を削ることなのだろうか……。
そもそも、美晴がやれることは、そこまで無いような気がするのだが……。
そんなこんな講義が終わると、保健室に直行しようとした。
ーーーー不穏な携帯のバイブル。
一瞬取ることをよそうかと思ったが、反射的に携帯を取り、パカっと開く。
ーーーーカジ……くん……。
無言の威圧。
着信を知らせるバイブルが次第に大きく早くなり、催促しているように感じる。
通話ボタンを押さざるを得なかった。
「……もしもーし。カジです。ねぇ、ヨシいない? 電話しても出ないから、君なら知ってるかなぁって」
「あのぉ、なんか……、学校で倒れちゃって、それで……」
「えぇ? 倒れたの? ったく面白くねぇな。ーーーーそうだ! 時雨ちゃん。今から遊ばない? いや、遊べ。今学校の正門前にいるから、4分以内な。拒否権とかまだ講義あるとか……オレには関係ないから」
そこまで言って、切られてしまった。
今から?
4分?
それって少し走らないと私のいるところからだと間に合わないくらい……。
今の私に冷静な判断はムリだった。
携帯をカバンに投げ入れ、チャック半閉め状態で走り出す。
思った以上にだだっ広いこの学校は端から端まで自転車で10分かかるとも噂されているくらい、微妙に広い。
基本的に東門を使っているので、そこら辺付近で動けるようには授業とかその他もろもろ作っている。
なので、正門からは遠い場所で学校生活を過ごしている。
それなのに、正門って……。
やっとのことで着いた正門の前には高そうな黒い車がそこでエンジンを噴かせていた。
「あ、きたきた。ほら、乗れよ」
体は拒否反応を示すのに、脳は言われるがまま動いてしまう。
車の後部座席に乗り込むと、この車にはカジくんしか乗っていなかった。
じわりとタバコの臭いがする車内は、高級感溢れる感じで、黒いソファーには赤いシートのようなものがかけられていた。
「4分23秒。遅れたね。殺すよ?」
ーーーーっ!
「まぁ、いいや。しっかり乗ってろよ」
急に走り出した車に、私はソファーに頭を打ち付けた。
これから、どこに向かうのだろう……。
そういった恐怖が、今さら体を犯し始めた。