128、
お墓参り帰りに近くのファミレスに入った。
彼は和風ハンバーグ。
私はカルボナーラ。
ドリンクバーも付けずに少しだけ料理を待った。
「今日はありがとね」
「いや、ホントに1回くらい顔見せないと失礼かなと思っただけだって」
出てきた紙おしぼりで手を拭いた。
「見えないだろうけどね」
とんだブラックジョークだ。
笑えない。
「あのさ、星空くんってお医者さんの養子なんだよね?」
なんか聞いてはいけないことを聞いてしまって、今更後悔する。
「うん、そうだよ。なんで?」
後悔したところで、なにもかわらない。
もう、自分のわからないことは聞こう。
「それなのに、なんでお墓、その、小さいやつだったのかなぁって。お医者さんならそこそこお金あるし、さぁ」
「アイツが興味あるのは周りの目だけだよ」
周りの目?
それが私の思う通りなのか、否か。
それによっては私は目の前の彼を哀れに思わざるを得ない事になる。
「僕たちを養子にしたのだって、僕たちを助ければ優しい先生なんだと思われるからだ。死んだ姉を悲しんでいる弟を事実上援助していればそれはなかなかな評価に繋がるだろうし、僕自身裏切ろうとも思わない。3食に衣住、ましてや大学の学費まで払ってもらってる。それなのに僕はそれに答えず東京でバンド活動をしようとしてるんだ。そろそろ親子の縁を切られるんじゃないかな」
言い終えてから料理が運ばれてきた。
和風ハンバーグの醤油らしきソースを星空くんが大胆にかけると鉄板がじゅっと美味しそうな音を上げて油を跳ねさせた。
「お墓は土門に建ててもらったんだ。アイツ、そんなもの建てることも、実家の墓に入れることも拒んだんだ。だから、密かに……」
踊らされてる。
舞台の上の人は皆そうだ。
台本に踊らされ、どんなに感情移入してそれでいて完璧に演じても、結局は台本通りであり本人の意思などどこにもない。
そう、星空くんの生活に自分の意志なんてほとんどない。
決められたレールを進めなければ、簡単に見捨てられてしまう不安定な線路の上をほぼ脱線しながら走っているような状態だろう。
「まぁ後悔しないよ。僕は僕の道を進むだけだから」
大根おろしをたくさん乗せたハンバーグのブロックを口に運んだ。
「美月姉がどうとかじゃなくて、僕はそうしたいからそうしてる。それだけだよ。美月姉これを聞いたらなんて言うか」
愛想無く笑うと、自然としゅんとした感じに頭を下げた。
美月さんなら……。
美月さんなら?
「星空くんの決めたことだから、それでいいよって言うんじゃないかな」
「え?」
なんか変なこと言ってしまった気がする。
「星空くんの決めたことなら、きっと尊重するかなって、美月さんならそういうかなって……」
自信がない。
まずあったこともないのだからどういう人かなんてわかるはずもない。
でも、こんなことを言う気がした。
なんとなくね。
私が自信なさげに俯くとクスクスと笑う音が聞こえて星空くんを見る。
「ごめん。笑うつもりはなかったんだけど」
そう前置きすると、口をおさえて笑い始めた。
「ひ、酷い!」
「ううん。ごめん。でも、美月姉なら確かにそう言うなって思ってさ。そしたらおかしくなっちゃって」
そうだとしても、何故笑うのか。
もう、失礼だと思いませんか!
「でもありがとう。きっとそうだよね」
「絶対にそう思ってない!」
「思ってるよ。笑ってることは謝るけど
ツボに入ったらしくてね」
「もう! 星空くんなんて知らない!」
「ごめんって!」
星空くんの笑いは1人になるまで度々起こった。