126、
遅目のデザートを食べ終え、そろそろ帰宅しようとお店を出た。
土門さんが結局値段を上げたため、お財布の中が寂しい。
なにか買って帰ろうかと思ったがそれはできないようだった。
星空くんと駅まで歩く中、ふと空が明るく光った。
流れ星かと思ったけどそうじゃなかった。
「満月だね」
星空くんの言葉に見上げると、まん丸の月が半分だけ出ていた。
これだけで満月だとわからないが、なんとなくそうなんだと理解してしまった。
ネオン街を抜けると月がしっかり見えた。
うさぎが餅をつくと表現されるそのマントルは相変わらず痣のように薄暗く、それでも太陽の恩恵を受けて凛と光っている。
雲ひとつない星空も街の明るさで1番輝く星たちがぱらぱらと見えるだけだった。
なんの変化もない空色なのに、星空くんは何かをじっと眺めていた。
大きな月。
美しい月を。
「ねぇ」
いきなり呼ばれたので、驚いたように星空くんを見た。
「明日暇?」
「う、うん。まぁ」
「もしよかったら、墓参りについてきてくれない?」
「え?」
きっと、美月さんのだろう。
しかし、断る理由もなかった。
むしろ、1度顔を出さないと失礼な気がした。
「学校ある?」
「ないよ」
「そっか。いつものところに時間は後でメールするね」
うん。
そう頷いてまた歩き出す。
きっと明日は晴れだろう。
雲ひとつない、綺麗な晴れ。
なんだか、人生と言うなの物語に振り回されているような気がする。
朝な物語だったり、夜な物語だったり。
「じゃぁ、また明日」
「じゃぁね」
駅について、直ぐに別れた。
お互い線が違うから当然なのだが。
電車に乗ると丁度帰宅ラッシュらしく始発のこの駅からは果てしなく混んでいた。
半ばむりやり電車にのり、ドア付近に場所を落ち着けた。
この前みたいに痴漢に襲われなきゃいいけど……。
車窓から見える空はやけに明るい。
満月のせいなのか、それとも他に原因があるのか。
私にはわからないけど、夜の闇が段々と薄れているのだと解釈した。
夜が開ければ朝になり、太陽が浮き出てくる。
きっと綺麗に輝く太陽は私の不安を一気に浄化してくれるのだろう。
そんな太陽が、いま、私の側にいない。
メールでもしようものなら雲が太陽を覆い隠す。
なんか変だなぁ。
時雨は雲がないと降らないのに。
多少悟ってはいた。
釣り合わないとかそういうのとかじゃなくて、障害が多いという意味で。
最終的には、私も空も同じようなものだ。
きっと、私が全てを淀ませてるに違いないんだと。
月も星も、太陽も、全ては雲が邪魔なのだと。